金融緩和政策に対する企業の意識調査

- TDB景気動向調査2016年10月特別企画 -

 

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2016年11月15日
株式会社帝国データバンク

金融緩和効果、企業の6割が「実感なし」

〜5年後の予想物価上昇率は平均1.29%〜


はじめに

 日本銀行は2013年4月に始めた金融緩和政策を継続しているが、9月21日には新たな政策枠組みとして「長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策」を導入した。また、政府は事業規模28兆円の経済対策を8月に閣議決定し、10月11日には2016年度第2次補正予算が成立するなど、景気が低調に推移するなかで、景気対策の両輪となる金融・財政政策の投入・転換が行われている。
そこで、帝国データバンクは、金融緩和政策の効果や政府の経済対策に対する企業の見解について調査を実施した。なお、本調査は、TDB景気動向調査2016年10月調査とともに行った。


調査期間は2016年10月18日〜10月31日、調査対象は全国2万3,779社で、有効回答企業数は1万243社(回答率43.1%)。

※本調査における詳細データは景気動向調査専用HP(http://www.tdb-di.com/)に掲載している。

調査結果(要旨)

  1. 金融緩和政策の効果について、「実感はない」企業が59.7%だった一方、「実感がある」は12.9%にとどまる。『金融』(24.8%)や『不動産』(22.0%)で2割を超えた。多くの企業で金融緩和政策について、その効果を肌感覚で認識するには至らず
  2. 1年前と比較した自社の主力商品・サービスの販売価格は、「変わらない」が51.8%で半数を占めた。また、「上昇」した企業は17.7%となり、「低下」(24.0%)を6.3ポイント下回った。平均すると販売価格は0.48%低下。業界別では、『不動産』が0.81%上昇した一方、『小売』は0.92%低下
  3. 政府の経済対策に対して「期待している」が24.5%。「期待していない」(29.6%)や「どちらともいえない」(32.3%)も3割前後となっており、経済対策への見方は分散した。期待する経済対策では「個人の所得増加策」が39.7%でトップ、以下「中小企業・小規模事業者の経営力強化・生産性向上支援」「人手不足対策」が3割台で続いた
  4. 今後の物価、来年度(2017年度)は平均+0.44%、5年後(2021年度)は同1.29%と予想。5年後の物価は来年度より高まるとみているものの、日銀のインフレ目標2%には依然として届かないと見込んでいる様子がうかがえる

1. 金融緩和政策の効果、企業の6割が「実感はない」

 日本銀行は2013年4月以降、金融緩和政策を随時見直しつつ現在まで継続しているが、自社の企業活動において、金融緩和政策の効果について実感があるか尋ねたところ、「実感はない」と回答した企業が59.7%と約6割にのぼった。他方、「実感がある」は12.9%にとどまり、多くの企業で金融緩和政策について、その効果を肌感覚で認識するには至っていないことが明らかとなった。
 金融緩和政策の効果について「実感がある」とした企業を業界別に見ると、『金融』が24.8%と最も高く、次いで『不動産』が22.0%となり、この2業界のみが2割を超えた。とりわけ、『不動産』においては、「マイナス金利で住宅ローン金利が低下したことに加え、金融機関が比較的リスクが少ない不動産に関連する融資に積極的に取り組んでいる」(貸事務所、北海道)や「自社の事業資金融資や、顧客が不動産購入時に組む各種ローンが通りやすい」(不動産管理、神奈川県)といった、住宅ローン金利の低下などにともなうプラスの効果をあげる企業が多くみられた。他方、『金融』からは、「貸出金の利率が他の金融機関との競合等により大幅に低下している」(信用金庫・同連合会、東京都)や「資金運用が非常に困難になった」(損害保険、東京都)といった意見がみられ、中長期の資産運用など金利低下によるマイナス効果を指摘する声が多かった。
 規模別にみると、「実感がある」とした企業は「大企業」が13.6%、「中小企業」が12.7%、うち「小規模企業」が10.6%となり、「大企業」が「小規模企業」を3.0ポイント上回った。企業からは「大企業には効果があるだろうが、中小企業に効果が出るのは時間がかかると感じる」(一般土木建築工事、山口県)など、企業規模が小さいほど金融緩和政策の効果を実感していない様子がうかがえる。


2. 自社の主力商品・サービスの販売価格、1年前と比較して平均0.48%下落

 自社の主力商品・サービスの販売価格が1年前と比べてどの程度変化したか尋ねたところ、「上昇」した企業は17.7%となり、「低下」(24.0%)を6.3ポイント下回った 1。他方、「変わらない」は51.8%で半数を占めた。また、平均変化率はマイナス0.48%となり、企業の主力商品・サービスの販売価格は、1年前と比べてやや低下したという結果となった 2
 販売価格の平均変化率を業界別にみると、『不動産』が平均プラス0.81%で最も上昇したほか、『運輸・倉庫』『建設』の3業界が上昇した。他方、『小売』はマイナス0.92%で販売価格の低下率が最も大きかったほか、『製造』『卸売』など6業界で低下した。

 企業からは、「円安が進み、海外からの商品仕入れ価格が上昇し経営を圧迫しているが、販売価格に反映させるのは難しい」(男子服卸売、広島県)や「販売価格に転嫁できないという問題は、企業努力で補うにも体力には限界があり、結局のところ人件費にしわ寄せがいくことが多い」(肉製品製造、茨城県)など、仕入れ価格の上昇を販売価格に転嫁できないという声が多くあがった。販売価格の上昇が一部業界でみられた一方、取引先からの値下げ要請も多く、主力商品・サービスにおいても厳しい価格設定を余儀なくされている実態が浮き彫りとなった。



1.「上昇(低下)」は「20%以上上昇(低下)」「10%以上20%未満上昇(低下)」「5%以上10%未満上昇(低下)」「1%以上5%未満上昇(低下)」の合計。

2. 平均変化率は、原則として各選択肢に中間値を与え、「20%以上上昇(低下)」は20%(−20%)として算出した。

3.  経済対策への期待度分かれる、具体的内容では「個人の所得増加策」がトップ

 政府は8月に事業規模28兆円にのぼる経済対策を閣議決定し、10月11日に2016年度分の補正予算が成立した。そこで、政府の経済対策に期待しているかどうか尋ねたところ、「期待している」と回答した企業は24.5%となった。しかし、「期待していない」(29.6%)や「どちらともいえない」(32.3%)も3割前後となっており、経済対策への見方は分かれる結果となった。
 期待する経済対策では、「個人の所得増加策」が39.7%で最多となった(複数回答、以下同)。次いで、「中小企業・小規模事業者の経営力強化・生産性向上支援」36.5%、「人手不足対策」30.1%が続き、いずれも3割超となった。さらに、「子育て・介護の環境整備」「地方創生の推進」「社会インフラの整備(道路、港湾など)」「中小企業・小規模事業者向けの資金繰り支援」が2割を超えており、家計所得の増加や中小企業支援だけでなく、子育て・介護支援や人手不足対策など、企業活動を行ううえでより幅広い環境整備を経済対策に期待している様子がうかがえる。
 ただし、「個人の所得増加策」や「社会インフラの整備」では「大企業」ほど期待が高くなっている一方、「小規模企業」では「中小企業・小規模事業者向けの資金繰り支援」が全体を10ポイント近く上回るなど、企業規模に応じたきめ細かい政策の実現が求められよう。
 企業からは、「財政健全化と社会保障、特に年金制度の改革によって国民の将来への不安を解消することが経済の活性化にとって最も必要」(発電機・電動機・その他の回転電気機械製造、神奈川県)といった将来不安の解消が最も重要とする意見や、「経済対策の具体的なものが国民として見えてこない」(産業廃棄物処分、茨城県)など国民へのより詳細な周知を求める声もあった。また、「政府の経済政策はほぼ出尽くした感がある。企業はそのような経済対策に頼らない自立した経営が必要」(配合飼料製造、宮城県)といった、企業自身の経営力を高めていくべきという意見もみられた。

4. 物価予想、5年後に平均1.29%の上昇を見込むが、日銀の目標2%には届かず

 今後、物価上昇率(インフレ率)がどの程度になると思うか尋ねたところ、来年度(2017年度)は「上昇」すると予想している企業が38.6%、「0%程度」が30.4%となり、「下落」を予想する企業は11.6%にとどまった。上昇・下落幅をみると、最も多いのは「0%程度」で、次いで「+1%程度」が28.6%で続いた。企業は、来年度に平均0.44%上昇すると見込んでいる。
 また、5年後の物価動向予想では、「上昇」が53.6%と半数を超えており、「0%程度」(11.5%)、「下落」(8.8%)を大きく上回った。企業は、5年後には同1.29%上昇すると予想しており、来年度よりは高まるとみているものの、日本銀行が目標として掲げる2%には依然として届かないと見込んでいる様子がうかがえる。
 業界別にみると、来年度の物価予想は『建設』が平均+0.65%と最も高く、次いで『サービス』『運輸・倉庫』が続いた。最も低い『農・林・水産』は同+0.28%となっており、最も高い『建設』を0.37ポイント下回るインフレ予想となっている。5年後は『建設』が同+1.44%で最も高く、来年度とともに物価の上昇を最も見込む業界となっている。しかし、『不動産』は同+0.90%と最も低い物価上昇予想となった。
 企業からは、「経済の規模が拡大しない中では、生産性の向上が物価を下げる力として働く」(事務用機械器具卸売、秋田県)や「2019年の増税が実施されると5年後のインフレ率はマイナスになる」(製缶板金、熊本県)、「物価が2%の目標からどんどん落ち込んでおり、日銀の取り組みはどうなっているのか、不安が出てきた」(貸事務所、埼玉県)といった声が聞かれた。

まとめ

 金融政策に多くを頼るアベノミクス政策が転換を迫られている。日本銀行は9月21日に実施した「総括的検証」を踏まえて新しい金融政策の枠組み「長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策」を導入したほか、政府は臨時国会において2016年度第2次補正予算を成立させるなど、景気対策の両輪となる金融・財政政策が打ち出されている。
 しかしながら、本調査によると、2013年4月から継続されている金融緩和政策について、企業の約6割が自社の企業活動に対して、その効果を実感していないことが明らかとなった。また、自社の主力商品・サービスの販売価格が1年前より平均0.48%低下していたが、不動産が大きく上昇する一方、小売では1%近く低下するなど、業界によって明暗を分ける状況となっている。
 政府の経済対策には4社に1社が期待感を示すにとどまったものの、期待する経済対策としては「個人の所得増加策」がトップとなっているほか、「中小企業・小規模事業者の経営力強化・生産性向上支援」への期待も大きい。
 企業は、日銀のインフレ目標の達成は当面、届かないと予想している。しかしながら、20年にわたり続いたデフレ経済からの脱却は、本格的な景気回復には欠かせない要件である。また、物価上昇は、企業や個人の物価に対する期待が変化しなければ達成できないことも確かであろう。そのため、政府・日銀は、企業や個人の将来不安を払しょくし、安心して事業を展開するためにも、企業の声に耳を傾けたきめ細かい政策を実施していくことが肝要となろう。


調査先企業の属性

1)調査対象(2万3,779社、有効回答企業1万243社、回答率43.1%)

2) 企業規模区分

中小企業基本法に準拠するとともに、全国売上高ランキングデータを加え、下記のとおり区分。

注1:中小企業基本法で小規模企業を除く中小企業に分類される企業のなかで、業種別の全国売上高ランキングが上位3%の企業を大企業として区分
注2:中小企業基本法で中小企業に分類されない企業のなかで、業種別の全国売上高ランキングが下位50%の企業を中小企業として区分
注3:上記の業種別の全国売上高ランキングは、TDB産業分類(1,359業種)によるランキング


【問い合わせ先】
【問い合わせ先】株式会社帝国データバンク 産業調査部 情報企画課
担当:窪田 剛士
Tel:03-5775-3163
e-mail:keiki@mail.tdb.co.jp
当リリース資料の詳細なデータは景気動向調査専用HP(http://www.tdb-di.com/)をご参照下さい。

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