貧困率は多角的に検証していくことが必要

10月20日、厚生労働省は2006年の日本の相対的貧困率が15.7%であると発表した。OECD加盟国では4番目に高く、この数値を元に各マスコミでは「貧困率拡大」などと報道している。しかし、この"相対的貧困率"は十分に注意して論じなければならない。


貧困率には"絶対的貧困率"と"相対的貧困率"の2種類がある。絶対的貧困率とは、世界銀行の定義によると1日の所得が1米ドルに満たない国民の割合のことである。一方、相対的貧困率とは、OECDの定義によると等価可処分所得(世帯可処分所得を世帯員数の平方根で割った値)が、全国民の等価可処分所得の中央値の半分に満たない国民の割合のことである。


この可処分所得には、1.賃金などの就労所得、2.利子や配当などの財産所得、3.仕送り等、4.公的年金、5.その他の現金給付が含まれ、保健・医療・介護サービスなどの現物給付や不動産などの資産は含まれない。例えば、広大な土地を所有し悠々自適な生活を送っている人、あるいは、自動車や住宅ローンも払い終わり老後の生活をエンジョイしている人も貧困層に含められる。つまり、元から資産を持っている富裕層も貧困層に含まれてしまうのである。これらの点は、2007年にOECDが相対的貧困率を公表したときにも指摘されたことである。


ちなみに、民主党のマニフェストにある子ども手当の給付は「その他の現金給付」に該当するため相対的貧困率の改善には寄与するが、学費無料化は特に影響を与えるものではない。逆に、子ども手当の財源確保のために各種減税措置の廃止や増税で可処分所得が減少するようなことがあれば、相対的貧困率の改善とは逆行してしまう。


とはいえ、相対的貧困率が緩やかながらも上昇しているのは確かであろう。相対的貧困率の上昇要因は主に3つあり、(1)高齢化、(2)単身世帯の増加、そして(3)勤労者層の格差拡大である。何が日本の相対的貧困率を引き上げているのか、ということを検証したうえで、対策を講じていくことが肝要であろう。


貧困率について論じるときには、相対的貧困率と絶対的貧困率の違いはしっかりと区別されていなければならない。また、十分な所得がないために食料や被服などの生活必需品を買うことができない人びとの割合など、貧困問題については多角的に評価することが必要なのではないだろうか。

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