いまこそ求められる新卒一括採用の見直し

2010年04月05日

厳しい雇用環境が続いている。失業率は高水準で、大卒、高卒の就職内定率も1990年代の就職氷河期を下回る状況である。就職活動中の学生は、身近な先輩の失敗談やワーキングプアなどの情報が溢れているだけに、内定獲得に向けて必死であるが、現実には留年やフリーターを選択せざるを得ない学生も発生している。


政府も雇用環境の悪化に手をこまねいているわけではない。経済対策として雇用維持や就労支援を実施しており、先日は労働者派遣法の改正案を閣議決定した。
しかし、財政悪化が進み、年金不信など社会保障面でも先行き不透明感が根強いなかでは、政府により家計支援が実施されても、消費マインドの改善効果は小さく、雇用の創出にもつながらない。より重要なのは、雇用機会の均等を図ることである。


そのためには、企業が一定期間内で新卒のみを対象に採用活動を行う「新卒一括採用」システムを変える必要がある。新卒一括採用は、高度経済成長期には人材確保のための制度として有効であったものの、近年は低成長やマイナス成長が恒常化して、就職から漏れる学生が増加傾向にある。社会人第一歩でのつまずきが、その後に及ぼす影響は大きく、所得や消費減、婚姻率の低下要因とも言われている。


最近、バブル経済崩壊以降を「失われた20年」と表現されることが増えてきた。少し前までは「失われた10年」「失われた15年」であったが、このままではさらに時間が経過していく可能性がある。
社会や人々のライフスタイルの変化に対応し、同時に日本の将来像を描きながら、さまざまな制度を再構築していくことは、政府の重要な役割である。
政府は学生やフリーターたちの悲痛な声を聞いているのか。
再チャレンジのためのわずかな支援を一時的に手当するだけでは、今後も同じような問題を生みだすのみである。解決には政府主導で、官民一体となった取り組みが求められる。過去の高成長期型の制度や慣習を見直し、社会人第一歩の雇用機会においても均等を図るための制度を構築して、長期的な日本の安定成長につなげていかなければならない。

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