幸福度の指標化は可能か

政府が取りまとめている「新成長戦略」では、国民の「幸福度」を表す新たな指標を開発するとしている。国民の幸福度の向上につながるさまざまな要素を取り入れた成長を目指すのが狙いだという。しかし、国民の幸福度を高める成長戦略を策定すること自体は望ましいといえるが、幸福度を具体的にどのように捉えるかを規定することは難しい。


幸福についての研究は、1970年代に所得の上昇が必ずしも幸福感に結びついていないという「幸福のパラドックス」が唱えられて以後、非常に活発化している。そして、物質的条件だけでなく精神的条件についての研究も進んだ。その結果、人びとが幸福かどうかを判断する要因は個人間でかなり共通していることが分かってきた。


国際的規模で進められている幸福の意識調査から、経済発展の初期段階では所得の上昇が幸福度の向上に大きく寄与するものの、成長するにつれその効果は薄れ、やがてほとんど影響しなくなる、という事実発見が提起された。2008年の「世界価値観調査」では、幸福度に対して経済的繁栄の影響が薄れる一方で、選択の自由や社会の寛容度が大きく作用する、ということが明らかになっている。豊かな国では、富を得ることで生き方を自由に選択でき、男女平等やマイノリティーなどへの寛容性が人びとの幸福度を高める。一方、貧しい国では地域の絆や信仰心・愛国心が幸福感を補っているという。


日本では経済成長が幸福度に与える効果は薄れているかもしれない。しかし、現在の名目GDPは約20年前と同水準であり、本当に日本において経済成長が幸福度に影響を与えなくなっているのか検証する余地はある。


ちなみに、脳科学の研究によれば、脳が幸福を感じるのは唯一、"家族"であるという。政府による幸福度指標の開発とは、人びとが幸福を感じる要因が何であるかを解明することと同義である。困難ではあるが、成功すれば社会に与える貢献は大きい。

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