中国企業による日本企業買収の背景にあるもの

業界再編の動きが活発化している。日本企業がかかわるM&A(合併・買収)件数は、2005年度下期から概ね減少傾向が続いていたが、2009年度下期は上期を上回り、減少にようやく歯止めがかかりつつある。


そのような状況のなかで、中国企業による日本企業へのM&A件数は着実に増加しており、2002~09年には計148件あった(レコフ調べ)。そのうち、香港企業が83件、中国本土企業は65件であるが、中国本土の企業からのM&Aは2006年以降、急速に増加している。中国企業の動きは過去の全国人民代表大会(全人代)の決定を背景にしている。さらに、2010年3月に開催された今回の全人代においても、温家宝首相は政府活動報告のなかで、「"海外に打って出る"戦略の実施を加速」させ「条件に符合する企業が海外で企業買収を展開」することを支持する、と述べている。今後も、中国企業による日本企業へのM&Aが衰えることはないと考えるべきであろう。


一方、買収される側の日本企業は中国企業による買収に大きな脅威を抱いている。帝国データバンクが2010年4月に実施した「業界再編に対する企業の意識調査」によると、中国など新興国主導による日本企業の買収の動き(事業買収や業務提携など含む)が日本経済にとって今後の脅威になるか尋ねたところ、78.1%の企業が「脅威になる」と回答した。特に製造業において、技術流出やモノづくりにおける競争力低下などについて強い脅威を感じている。


中国企業の買収は中国政府が後押ししていると同時に、人民元の動向にも左右される。人民元は、日本も含め主要国から通貨価値の切り上げを要求されている。事実、人民元は米ドルと連動して動くドル・ペッグ制という為替制度をとっていた。しかし、海外からの切り上げ要求を受け、2005年7月からは通貨バスケットを参照しつつ市場の需給に基づいて人民元レートが決まる管理変動相場制に移行し、米ドルに対して2005~08年に約2割、通貨価値が上昇した。2008年9月のリーマン・ショック以降は、中国当局は為替介入により人民元レートをほぼ固定している。


対して、日本経済は依然として外需に頼る状況が続いている。そのため、輸出に好条件となる円安を求める意見は根強い。2005~09年までに円はドルに対して約15%増価した。そのため、人民元は円に対して約5%程度の増価にとどまっている。今後、円安ドル高が進めば日本の輸出には好都合となりうるが、同時にそれは円安元高となり、中国企業にとっては日本企業を買収する資金力が相対的に高まることになる。これは、1980年代の日本とアメリカとの関係に酷似している。日本企業は、かつてアメリカ企業が味わった感覚をいま味わっているのだろう。日本はこのような国際経済環境にあることを前提として、戦略を立てていかなければならない。

このコンテンツの著作権は株式会社帝国データバンクに帰属します。著作権法の範囲内でご利用いただき、私的利用を超えた複製および転載を固く禁じます。