世界的な発展や景気回復を妨げる感情

2010年06月03日

2010年5月24日、アパレル大手のレナウンは4期連続で営業損失を出し、資金援助と経営の立て直しのため中国の繊維大手である山東如意との資本業務提携に合意した。百貨店の販売不振や、海外ブランドの失敗などが、レナウンの売上高に大きく響き、希望退職者募集や本社ビルの売却など、経営のスリム化を図ったものの、単独での力及ばず山東如意の支援を受け再建を図る。


レナウンは売上高の7割以上が百貨店での売り上げである。かつては大きな広告を打ち、ブランド力を有していたとともに、商品は上等な素材・縫製などで仕立ても良く、品質面でも消費者からの信頼を得ていた。しかし、消費者の百貨店離れによる販売不振は大きな痛手となった。今回の提携で山東如意はレナウンの技術や大口顧客などを得、レナウンは経営再建に用いる出資金と中国での販路などを得るのである。しかし、中国企業である山東如意との提携をマイナスと捉える報道が多いように感じるのは気のせいだろうか。
「中国企業との提携が品質を悪くする」「国の財産である技術が流出する」との声もあるようだが、品質面に関しては、それは杞憂であるのではないか。この業務提携に再起をかけているレナウンにとって、国民所得に格差のある中国において市場ニーズに合わせた商品を展開する可能性はあるが、既存の品質をただ下げるような経営判断はしないだろう。


もちろん、過剰な技術流出は国益の損失につながるため、一定の防止策は必要である。しかし、自国で培ったものは門外不出であるという考え方では、今後の世界的な発展の妨げになるだろう。ゆくゆくは有益な技術は世界中に平準化されるものである。
かつて産業革命はすべて西洋から始まり、日本が技術を享受できたのはそれから100年近く経っていた。当時の日本人は西洋の技術に感嘆したことであろう。いま、日本は素晴らしい技術を持っている。そして、世界全体の底上げに日本の技術を伝授すべきである。


いま、最も怖いのは、中国企業と提携した企業に消費者がマイナスイメージを持つことと、日本経済の考え方がいわゆる「島国根性」になってしまうことである。現在、中国など新興国の外需が景気のけん引役となっているなか、感情が景気回復の妨げになることだけは避けなくてはならない。

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