消費税は内容の議論を求める
7月11日に実施される参議院選挙では消費税が争点のひとつとなっており、各党は侃々諤々と意見をたたかわせている。消費税率について選挙で真正面から取り上げ、与野党問わず賛否が入り乱れるのは初めてのケースであろう。ただ、実際の消費税率の引き上げまでには数年が必要だ。というのも、消費税には低所得者ほど相対的な税負担が増加するという逆進性の問題があり、それを緩和するための制度整備に時間がかかるためである。
具体的には、"給付付き税額控除"と"軽減税率"が考えられている。しかし、両制度の導入では、給付付き税額控除には税と社会保障の共通番号制度(社会保障番号や納税者番号など)が、軽減税率にはインボイス方式が重要になる。給付付き税額控除とは、基礎的な消費にかかった税額相当分を納税者に返還するものであり、返還する額は所得に応じて決まってくる。そのため、個人の所得を正確に把握し、納税と給付に利用できる共通番号制度が欠かせない。一方、軽減税率とは、食料品などの生活必需品に適用する税率である。インボイス方式は欧州など軽減税率を採用している国が導入しており、商品により異なる税率が課され税額計算が煩雑になる軽減税率にはインボイス方式の採用が望ましい。
過去、消費税は政治の舞台でたびたび議論されてきた。1979年に大平正芳首相(当時、以下同)は"一般消費税"の導入を検討したものの大反対にあい撤回したうえ、総選挙で大敗した。1987年に中曽根康弘首相は"売上税"を断念。そして1989年に竹下登首相が"消費税"を導入したものの、支持率の低迷に加えてリクルート事件も重なり退陣した。1994年には細川護煕首相が消費税を廃止し7%の"国民福祉税"の創設を発表したものの、翌日には撤回、退陣の契機となった。1997年に橋本龍太郎首相が消費税を3%から5%に引き上げたものの、金融危機等も重なり翌年の参院選で大敗、退陣に追い込まれた。
共通番号制度はこれらのすべての機会で議論された。インボイス方式は、1989年、1997年、そして2004年には消費税総額表示方式の導入時にも議論された。しかし、いずれも導入は見送られてきた。理由は国民が強力に反対したためである。つまり、逆進性の解消や生活必需品への軽減税率の適用は、われわれ日本国民が導入しないことを選択してきたのである。とはいえ、現在は消費税率を10%に引き上げるという主張が出ている状況であり、いつまでも結論を先送りすることはできない。実施時期や税率も大切だが、もっと内容、方法論の議論を分かり易く主張して欲しいところである。