役員報酬開示はプライバシーの侵害?
2010年3月期の有価証券報告書から、上場企業の役員で1億円を超える報酬を受ける場合にはその報酬額を個別に開示することが義務づけられた(企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令)。この役員報酬の個別開示を巡っては、これまで経済界はプライバシー侵害などの問題があるとして猛反対してきた。しかし、日本以上にプライバシー情報の開示に慎重なアメリカやヨーロッパで既に実施されている制度であり、経済界が主張するプライバシー保護の観点からの反対論は説得力に欠けよう。
往生際が悪いとしか思えないが、なかには何とか開示から逃れようと、期限までに報酬を1億円以内に減額することを検討していた企業もあるとされる。しかし、多くの株主から出資を受け経営を託されている責任ある上場企業の役員である以上、堂々と個別報酬を開示して説明を尽くすことで、株主に報酬の妥当性を理解してもらう事を避けるべきではない。経営の透明性に繋がる情報開示を避けたいのであれば、思い切って上場を廃止し、未上場企業として生きる道もある。
高額報酬であっても、厳しい経済状況下、的確な経営判断で好業績をあげ、株価も堅調な企業であれば株主も納得できるはずである。他社に先んじて国内上場企業でいち早く社長以下3名の個別報酬の開示を行った資生堂の2010年3月期決算は、景気低迷で売上高は落ち込んだものの、コスト削減等の企業努力が奏功して増益決算となっている。この企業努力が評価されたためかどうかは推測の域を出ないが、今のところこの3名の報酬が高額すぎるとの批判は聞かれていない。むしろ、1億円未満で開示基準にあたらない副社長の報酬をも、代表取締役という職務の重要性から公表した同社の積極的な情報開示姿勢が高い評価を得たようだ。
一方の株主側も、情報開示を受け、やみくもに役員報酬を削ろうと考えるのではなく、当該企業の業績、同業他社の状況、役員の手腕やカリスマ性なども勘案しながら、報酬の妥当性を判断していく必要があるだろう。