「キャリア段位」が21世紀の日本を支える制度となるのか

2010年09月03日

政府は、8月31日、新しい職業能力制度「キャリア段位」創設への検討に着手した。すでに今年の6月に発表された「新成長戦略」のなかで構想が示されており、2011年度より介護や環境・エネルギー、食や観光分野などに「キャリア段位」が導入される可能性がある。


「キャリア段位」は、イギリスの「NVQ制度」(National Vocational Qualification)を参考にしている。2008年度にスタートした「ジョブ・カード制度」も同制度を参考にしているが、企業での職務経歴や職業訓練、評価を記すジョブ・カードなどの既存制度と有効に連係しながら、実務で培ったキャリアを公的に認定する段位を設けて、人材育成や雇用確保につながることを目的としている。


段位はキャリアのみならず、その精神をも受け継ぐものである。書道や囲碁・将棋、武道などで世界的にも敬意の念をもって評価されている日本伝統の段位が幅広く活用され、近い将来、介護初段、エコ3段、観光案内5段などのエキスパートがさまざまなフィールドで活躍している姿は、想像してみるとなかなか楽しい。が、はたしてこれが産業の育成や待遇面の改善、向上にもつながるものなのか。


菅首相は、景気回復のためには「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と主張している。消費税増税を争点にして惨敗した参院選の反省から、家計目線の訴えが目立つ菅首相の今後の政策スケジュールに、企業支援の拡充という思考はどれほど含まれているのだろう。需要不足の解消につながるような政策案はみられないなかで、段位の認定という安易な発想に対しては厳しい見方が多い。


民主党の代表選が熱を帯びているが、いまの日本に政治の空白を許せる余裕はない。21世紀の日本を支える新たな成長産業の育成に向けて、国政を預かる者は政争にあけくれることなく、政策案の選別を行って、より有効な政策の制度設計とその実現に尽力して欲しい。

このコンテンツの著作権は株式会社帝国データバンクに帰属します。著作権法の範囲内でご利用いただき、私的利用を超えた複製および転載を固く禁じます。