就職活動とノーベル経済学賞

10月11日に2010年のノーベル経済学賞が発表された。ピーター・ダイアモンド(マサチューセッツ工科大教授)、デール・モルテンセン(ノースウエスタン大教授)、クリストファー・ピサリデス(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授)の3氏である。受賞理由は、求人募集が多いときになぜ大量の失業者が発生するのか、経済政策が失業率にどう影響するか、などの疑問に応える理論を構築し、発展させたという「サーチ理論」に対してである。リーマン・ショック後に各国で失業が問題となったことを色濃く反映したものとなった。


サーチ理論は、需要と供給のみで価格が決まる市場でなく、情報不足など「市場の摩擦」と呼ばれるさまざまな原因でマッチングに時間がかかったりミスマッチが起きたりする市場を説明する理論である。ダイアモンド教授が理論の基礎を作り、それをモルテンセン教授とピサリデス教授が労働市場に応用した。


サーチ理論は私たちもビジネスの場でしばしば経験する。取引を行うにあたって、相手企業の商品はどのようなものなのか、技術力は、資金繰りは、支払能力は、ニーズは、などさまざま情報について調査会社を通じて、あるいは直接会って打ち合わせをしたり、プレゼンテーションの実施などコストをかけて調べることになる。このように取引相手を探す(サーチする)ことにコストや時間を費やして最適なマッチングを行うのである。


これが端的に現れるのが、企業と求職者がお互いにサーチ活動をして出会うことになる労働市場である。労働市場は企業と求職者が一堂に会して円滑に雇用契約が結ばれるのではなく、互いに相手を見つけるのに時間やコストを要する。このため、求職者が十分な雇用機会を獲得できない一方、企業も必要な労働力を確保できない状況が生じる。


昨今、日本でも学生の就職率の低下など、若者の就職難が深刻な問題となっている。このとき、"会社を選ばなければ就職はある"という論がしばしば展開されるが、これはサーチ・コストがゼロあるいは限りなくゼロに近い、ということを前提にしている。ジョブ・サーチにはある程度のお金が必要であり、就職活動・採用活動の長期化にともない求職者・企業の双方にとって負担が増している。とりわけ、資金力の乏しい学生にとってはなおさら厳しいものとなるため、精神論では解決できない問題である。今回のノーベル賞によって改めてジョブ・サーチ理論が注目されたことで、今後の日本の労働政策や失業政策に何らかの変化が現れるかもしれない。

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