大河の流れは既存ビジネスを飲み込むのか

アマゾン・ドット・コム(米国)の日本法人であるアマゾンジャパン(株)は11月1日、発送する商品の通常配送料金を無料にすると発表した。同サービスは2010年1月からキャンペーンとして試験的に行われていたが、今後は恒久的なサービスとして展開していくことが見込まれている。


アマゾンはインターネット上の商取引の歴史を作ってきたといっても過言ではない企業である。同社は、1995年からインターネット書店サービスを開始している(アマゾンジャパン(株)は2000年設立)。1995年といえば、日本では阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件があった年である。インターネットに関連する歴史では、プログラミング言語であるJavaが公式に発表され、windows95が発売された年でもある。グーグルもないし、楽天もない。もちろんブロードバンドなど無く、インターネットが今よりはるかに小さいゆりかごの中にあった時代である。
そんな時代から同社はインターネット上での販売を開始し、カスタマレビューやアフィリエイトなど、さまざまなサービスを生み出してきた。


同社が今回発表したサービスは、小さな書店や商店のビジネスを根底から覆すきっかけになりかねない。インターネット書店をはじめ、多くのネット通販では一定価格以上は送料無料などのサービスが現在もある。しかし、価格の低い商品(文庫本やコミックス、雑貨など)のみの購入の場合は商品より送料が高くなるケースがしばしばあり、購入の大きなハードルとなっていた。このため、少額商品は実店舗を利用するという人が多く、ネット通販と実店舗の一定の棲み分けがされていた。その意味で同社が発表したサービスは今後、大きな波紋を呼びそうだ。


忙しい勤労者や、大きな商店が近場にない地方居住者などを中心にネット通販の利用者は増加傾向が続いている。また、重い物を持ち運ぶことが苦手な女性や障害者などを中心に重量の重い物(ハードカバーの本や米など)はネット通販で購入するという人も増えている。これらを背景にネット通販の取り扱う商品と金額は増加傾向にあり、2008年度からネット通販を含む通信販売の売上高が百貨店、コンビニを上回っている。


送料を気にせず気軽にネット通販が利用できるようになれば、現在利用が少ない高齢者などの利用者を取り込むことが可能になり、さらなる市場の拡大が見込めるだろう。
運送コストを誰が負担すべきなのかなど、さまざまな課題はあることは容易に想像できるが、今後は同様のサービスが日本企業にも拡大し、高齢者や障害者、地方居住者などが気軽に利用できるユニバーサルサービスとして拡大していくことを期待したい。

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