情報を隠すことができない社会

中国漁船と日本の海上保安庁の巡視船に衝突した事件で政府が機密情報としていた資料映像が投稿型動画サイトYouTube(ユーチューブ)に投稿された事例は、加速度的に進化するインターネットメディアに政府やマスコミが対応し切れていないことを、皮肉ながら証明した。


投稿者は、YouTubeに投稿を行う前に海外大手マスコミに資料を送付していた。しかし、送られた資料は外部記憶媒体のみで、差出人名や、データの内容も明記されていなかった。このため、受け取った担当者は社内規定に従って破棄を行っていた。
情報セキュリティの観点から考えると、資料を受け取った担当者は最良に近い行動を行っている。しかし、結果としてマスコミが外部からもたらされる情報のすべてをチェックしているわけではないという事実を、広く認知させる結果となった。
仮にマスコミが情報を入手していたとしても、情報の信頼性や社会に与える影響などの検討を行う必要があるため、インターネットメディアに比べ、情報公開が遅れただろうといった意見がマスコミ関係者のなかでも挙がっている。


インターネットメディアを介した内部告発は日本に限ったことではない。民主主義を先導するアメリカはもちろん、自国のマスコミを掌握している独裁国家からの告発でさえ増加傾向にある。
なかでも、2007年1月から運営が開始されたWikileaks(ウィキリークス)というウェブサイトは従来のメディアの可能性を大きく変えた。Wikileaksは政府や、企業、宗教に関わる機密情報を公開するサイトで、高度に洗練された技術により告発者の匿名性を保っている。そのためWikileaksには、アメリカ軍によるイラク戦争での不祥事や、海外大手銀行の不正など国際的に大きな問題となるような機密情報が公開されている。
Wikileaksに対しては、巨悪を暴けるといった賛同意見がある一方、国際関係や安全保障上の問題になりかねないといった意見が各国政府やジャーナリストなどさまざまな方面から挙がっている。


映像撮影のできる携帯電話の普及など、情報端末機器の小型化・低価格化と高速なネットワークインフラ整備は世界的に広がっている。今回の流失事例を内部告発と同列に考えることはできないかもしれないが、インターネットの利用環境、情報公開の即時性や世界への波及効果を勘案すると、告発者がインターネットメディアを利用する機会は今後も増加する可能性が高い。
あるビデオジャーナリストは、今回の衝突映像がYouTubeに投稿された件に対して次のようなコメントした。「管理すれば情報は漏れないという考えは捨てなければならない。あらゆる情報を漏れることを前提に作成、管理するということ。それは情報操作をある程度あきらめることであり、メディアに限らず本音と建前を使い分けてきた日本的な社会そのものが変わることでもある」


インターネットメディアが今後も発展していくことで『行動が記録され、情報が筒抜けになる監視社会』になると考えるか、『不正や悪事が必ず暴かれる透明性のある社会』になると考えるかは議論が分かれるところだ。筆者自身はインターネットメディアの発展により政府・企業・個人がともに、公序良俗に則った行動を行うことを促す社会に向かっていると考えたい。

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