原発リスクの再考
福島原発事故において、国内では風評被害や避難地域の拡大、海外からは日本の農水産物や加工食品のほか、被災地域外の工業製品の取り引きをも敬遠する動きが拡大し、産業界や国民は大きな痛手を被った。国内外から危機管理の甘さや初動の遅さについて非難を浴びているが、たとえ原発問題が収束したにせよ、今回の事故の影響は大きい。
放射線汚染水を海に放出した問題に対して、ロシア、中国、韓国は原発事故の関する情報公開について、そのスピードの遅さや情報量について、相次いで不満や疑念の声明をだした。「北方領土」の領有権を主張するロシア、「竹島」では韓国、「尖閣諸島」では中国と、この3国とは領土問題が解決していない。
これまで、外交政策の1つとして強固に主張してきた領土問題についても、今後の外交において弱腰となる恐れがあり、悪影響が懸念される。
ゴールデンウィーク中に国際テロ組織アルカイダの最高指導者であるウサマ・ビンラーディン容疑者の殺害のニュースが伝わったが、原発がテロの標的となる懸念も指摘されている。
今回の原発事故の報道により、冷却のための電源や非常用電源を絶つことで、容易に今回の事故を誘発できるという脆弱さがあらためて白日のもとにさらされた。生活、産業に与える影響の大きさと、影響収束までの期間の長さを考えれば、原発がテロの標的となってもおかしくはない。
化石燃料減少への対応や発電コストや二酸化炭素の排出量の低さで推進されてきた原発も、そのリスクの高さを再認識させられた。今後は地震や津波などの天災だけではなく、テロ対策やヒューマン・エラーの防止などの人災への対応を見直してリスク管理を徹底しなければ、原発を受け入れる地域のみならず、原発が設置される国民およびその周辺国の理解は得られなくなる時代に入ったといえる。