地域密着型の商業施設

2011年07月05日

鹿児島一の繁華街である天文館にあった三越鹿児島が閉店したのは2009年5月。九州新幹線の鹿児島中央駅開設により、天文館自体の集客が落ち込んでいたなか、三越鹿児島の閉店は町の衰退を象徴するかのように思われた。
そのようななか、跡地に出来たのがマルヤガーデンズである。ファッションなどのテナントを集め、百貨店の機能を持ちながらも、NPO団体やサークルなどに貸し出す10のスペースを有している。地域コミュニティが関わることのできる商業施設として展覧会や演奏会が開催されることもある。繁華街の一等地での催事は主催者側からも利用者側からも良好に受け入れられており、買い物目的ではない人にも足を運んでもらえると入居店舗側の反応も良いという。


今までの購買機会を与えるだけのビジネスモデルでは集客ができなくなっており、他店舗との消耗戦が行われている地域が多いなか、マルヤガーデンズのような取り組みは全国的にも珍しい。インフラの整備などが進み、かつてと比べて街に集まる人びとの年齢層も目的も、刻々と変化していくなか、新しい社会に適応したビジネスモデルの創造はここで私が言うほど簡単ではないだろう。ましてや今回の取り組みのように、地域の参加無しでは成り立たないモデルを民間企業が主体となって推進するのはさらに難しい。


景気の悪化が各小売企業の収益に響き始めてからというもの、不採算店舗を閉店させる動きが各地で頻発している。購買意欲の低下した消費者はなかなか買い物目的のためだけには出かけなくなったのだ。また、購買チャネルの多様化もあり、店舗の集客は以前に比べて厳しくなっている。加えて、オーバープレイヤーによって競争が激しさを増すなか、価格だけで他店舗に戦いを挑めば、立ち行かなくなることは周知のことと思う。
マルヤガーデンズは、他店舗との差別化を「地域コミュニティの場」を作ることで図った。客が店舗に行く目的を、買う行為のためではなく、その場で過ごすことに変えさせたのだ。また、店舗の魅力を地域コミュニティにすれば、長きにわたり地域住民の支持も得られる。


店舗が生き残るためには、地元に必要とされる存在にならないと、いつか飽きられてしまう。地域密着という性質は、昔の商店ならば当たり前であった。今後の小売業は原点回帰して、解決策を見付けるのかもしれない。

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