円高と日本経済
東日本大震災からの復旧・復興がなかなか進展しないなかで、8月2日の東京市場では終値1ドル=77円22銭~24銭まで円高が進んだ。この状況が続けば、日本企業が海外に流出する大きな要因となってくる。しかも、震災により日本から重要部品などの供給が一時的に途絶えた海外企業では、日本のみに依存することのリスクを改めて認識し、日本以外からの調達ルートも確保する動きを見せていたさなかである。
TDBが2011年7月に実施した「産業空洞化に対する企業の意識調査」では、今後の産業空洞化を懸念する企業は76.5%にのぼり、企業の海外流出要因のトップに「円高」が挙げられるなど、企業の危機意識は非常に強い。
しかし、現在の円高は日本よりもむしろ米国や欧州の通貨に対する信用が低下し、相対的に日本円が買われているに過ぎない。そのため、円安に向かわせるには、欧米の金融を引き締めてドルやユーロの通貨価値を上げるか、日本の金融を緩和して円の通貨価値を下げることである。ただ、日本はゼロ金利の状態にあり非伝統的手段に頼らざるを得ない一方で、欧米は経済の先行きに不安をおぼえ始めたなかでの通貨売りであるため金融を引き締める状況ではない。また、政府・日銀による為替介入では、一時的な効果しか持たず、円高の流れを変えることはできない。
つまり、政策によって円高に対応するには限界がある。そもそも、為替相場(=資産価格)に応じた財政・金融政策の発動は避けるべきということは、バブルの発生と崩壊を通じて我われが学んだ教訓であろう。日本経済は1973年に変動相場制に移行してから、さまざまな場面で為替レートに翻弄されてきた。非常に厳しい事態が続くが、日本は円高においても利益を生み出せる仕組み・経済を構築していくことが長い目で見て最適な道なのかもしれない。