自立に対するインセンティブを
9月6日の厚生労働省発表によると、今年5月に生活保護を受けた人数は203万1,587人となり、3カ月連続で200万人の大台を上回った。景気低迷や高齢受給者の増加などが大きな要因であるが、今後震災による失業や住居の喪失などの影響で増加する可能性が高く、戦後混乱期で過去最多を記録した1951年の月平均204万人を超える懸念が強まっている。
生活保護は憲法第25条の生存権に基づき、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を補償する国の最後のセーフティネットである。しかし、長引く経済の低迷による企業業績の悪化などで、最低賃金が生活保護の支給額を下回る「逆転現象」が現れるケースが出始めている。また、国民年金の最高支給額(約6万6,000円)を上回るケースもあり、国民年金加入者や未年金加入者の生活保護申請も増加するなど、生活保護のあり方自体が問われかねない状況となっている。
雇用保険にも同様のケースがみられる。本人の望む労働条件と求人に大きな隔たりがある場合、失業手当が就労による賃金を上回るため、就労意欲を大きく削いでいるといった指摘もある。
生活保護や失業手当などのセーフティネットによる受給と就労賃金を金額で比較した場合、就労賃金が支給額を下回り就労に意味を見出せないという議論が最近ある。しかし、そういった議論では就労は単に賃金を得るためだけのものとして議論され、知識や経験の習得、教育という可視化しにくい財産を得ているといった視点が抜け落ちていることが多い。就労は、賃金のみならず自己実現を行う一歩となるということを啓蒙し、自立を促すことが重要ではないだろうか。
インターネット上では低所得の若年層労働者ニートなどを中心に「働いたら負け」「生活保護受給者は勝ち組」といった考えがある。彼らの多くは社会に出る前にバブルが崩壊し、就職氷河期、非正規雇用の増加、少子高齢化などの自身では解決できない問題が横たわっていた。そのため、就労を通した自身の所得の向上や社会の発展など成長体験を実感する機会が得られなかった者も多く、就労に対する意欲が弱いとも言われている。しかし、いうまでもなく、今後のセーフティネットという社会制度を支えるのはそういった彼らを含む現役世代である。
彼らが就労に意味を見出すためには、行政を含め就労を通して賃金が上昇するモデルケースを提示するなど自立することに対するインセンティブを意識させることが重要である。また就労が可能な能力を有する高齢者や障害者など社会保障の被受給者が、自発的に就労を行えるような社会整備も併せて行わなければならない。それは就労者自身が就労の価値を見出し、互いに成長を享受するような意識改革につながるのではないだろうか。