就職活動と美男美女税

12月1日から2013年度入社に向けた採用活動がスタートした。これまでは10月から始まっていたが、学生が勉学により多くの時間を費やせるよう日本経済団体連合会が倫理憲章に定めたことによる。しかしながら、報道によると、選考時期はこれまでと変わらないこともあり、活動期間が2カ月短縮された学生は事前の就活塾などに流れているという。


最近、ネット上で「美男美女税」や「不器量補助金」についての話題が高まったことがある。学生が発端だったらしいのだが、採用活動の変更が学生に不安を生じさせた可能性はある。


「美男美女税」や「不器量補助金」は労働経済学の分野において重要なテーマの1つである。日本では少ないが、アメリカでは容姿や外見と所得との関係を調べた研究が数多く行われている。これまでの研究成果からは、学歴や人種、年齢など所得に影響を与える要因を取り除いたとしても、周囲から美男美女に見られる人と不器量に見られる人との間で、美男美女の方が統計学的にみて所得は高くなるという結果が得られている。


もちろん俳優やモデルなど美男美女がより高い所得を得ることに合理的な理由がある職種も存在するが、多くの場合は仕事と容姿との関連性は見出しにくい。なぜこのような問題が経済学で重要になるかというと、経済全体での生産性に関わってくるためである。容姿や外見は先天的な要素も大きく、また経済全体の生産性低下への対処として、美男美女から税を徴収し、不器量な人に補助金を支給するといった所得再分配が議論されることになるのである。


この両者の関係が生まれる理由としては主に3つ考えられている。1)仕事相手が美男美女であることで顧客の満足度が高まるため、2)俳優やモデルなど美男美女であること自体が重要となる職種であるため、3)雇用主が好みによって美男美女を採用するためである。1)と2)は実際に生産性が高まっているので所得が高くなることに問題はないのだが、3)は本人の生産性とは直接的な関係のないところで生じている。一般に、3)は競争的な市場におかれている企業では起こり難いが、規制などにより非競争的な市場にある企業で起こりやすい。ここからは、個人に対する所得再分配とは違い、規制を排して競争的な市場にするか、採用を容姿や外見で決めてはならないという規制を導入することになる。


2002~03年頃に日本で「リクルート整形」が話題となった。プチ整形が容易になったことで、女子大学生が就職活動の一環として整形を受けるとともに、再就職を求める30~50代の中高年男性の間でも増加していたというものである。美男美女税と不器量補助金がアメリカで提唱されたのも2002年であった。最近、この話が一部で盛り上がったことで、当時の話題を思い出した次第である。

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