Wikipediaがブラックアウトした日

2012年02月03日

世界最大のオンライン百科事典を運営するウィキメディア財団は、米下院に提案されたオンライン海賊行為防止法案(Stop Online Piracy Act (以下SOPA))および、上院で提案されている知的財産保護法案(Protect Intellectual Property Act(以下PIPA)に対する抗議行動として1月18日水曜日 午前5時 (UTC) から24時間、英語版Wikipediaを世界全体で停止(ブラックアウト)した。


これらの法案は、レコード会社、映画会社、出版協会、テレビ業界などの著作団体やアパレル、化粧品などの世界的なブランド企業の後押しを受け、提案された。その内容は、利権者の知的財産の保護、不正医薬品に対する消費者の保護などを目的に著作権を侵害している、または著作権侵害を助長するとされるウェブサイトに対して、米国の裁判所命令があれば、米国向けのインターネットサービス事業者に対し指摘されているサイトとの取引禁止や、検索エンジンに対しては当該サイトへのリンクを表示することを禁じるといったことを可能にする法案である。


この法案が可決されれば、インターネットサービスの根幹が崩れかねない。そういった懸念から世界最大の検索エンジンであるGoogleや世界最大のSNSであるfacebook、世界最大のネット小売のamazon、AOL(インターネットプロバイダー)、ebay(オークションサイト)、paypal(ネット決済サービス)、twitter(マイクロブログ)、Mozilla(FireFoxなどのオープンソースソフト開発団体)など文字通りインターネットサービスのオールスター企業がこぞって反対を表明し、場合によってはWikipediaと同じく、サービスのブラックアウトの検討をしていると発表した。


米国で提案された法案により英語圏のWikipediaが停止したことは大きく報道され、世界の注目が集まった。またオバマ政権が反対を表明したこともあり、1月20日にはSOPA法案を提出した下院議員は審議を正式に延期すると発表、1月24日にはPIPAの票決の無期限延期が表明された。


現在、米国のみならず日本でもインターネット上には、著作権を侵害するコンテンツが氾濫している。SOPAやPIPAは権利侵害を受けている企業や団体、また違法物により被害をうける利用者にとっては有益な法案となるだろう。しかし、コンテンツの違法・適法を誰がどのように判断するかという方法論が不透明な状況であったため、インターネット上の自由を大きく制限する検閲行為であるとネット利用者に捉えられ、企業、個人を問わず多くの抗議行動が行われた。


国際的な著作権条約の原案となるベルヌ条約が作成されたのは1886年。インターネットはもちろんのこと、録音機器も満足になかった時代である。その時代から著作権は大きな枠組みは変わっていないと言われている。今件は権利侵害コンテンツの排除よりも、権利侵害の定義について丁寧に議論することが重要であると伝えているのではないだろうか。

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