観光客で生活圏が脅かされる不便 ~香港~
先月、2012年6月の訪日外客数が東日本大震災以降始めて2010年同月比でプラスに転じたという内容を書かせて頂いた。訪日外客数の増加に最も寄与しているのは韓国、中国、台湾などをはじめとしたアジア圏の大幅回復であると。そのなかでも、今回は中国に注目したい。
中国人観光客は全世界で大幅に増加しており、中国公安部出入境管理局の発表した、2012年1-6月に中国から出国した中国人の数は前年比で19.75%増えている。出国先としての人気は上位から香港、マカオ、台湾、韓国、日本の順となっている。世界中で中国人観光客の争奪戦が行われているが、一方で社会問題も生み出している。
先日、私が香港を訪れたときも、中国人がこんなにも多いのかと驚いた。香港では1997年にイギリスから返還された後も、50年間は資本主義経済を維持することから中国の特別行政区として位置づけられており、中国から香港に行くには通行証の取得が必要となる。やや手間はかかるが、それでも香港は良いものが安く買えると中国本土の人にとって買い物天国になっているという。20時過ぎに通った、香港のブランドショップが並ぶ道では各店舗に行列が出来ていた。店舗への入場制限を行っているのである。ガイド曰く、主に中国人であると言い、客が後を絶たないため営業時間を長く設けているらしい。中国人観光客の増加は、香港の販売や観光産業をさらにもり立てている。
また、隣接する深セン市では同市の戸籍住民に数次ビザを発行しており、中国では販売されていない日用品や食料を買えたり、安価で良いものが手に入ると、市民には日常の買い物目的で来港する人も多い。現在香港への入域者は旅行者も含め約6割が中国からというが、9月1日から深セン市の非戸籍住民にも数次ビザ取得が出来るように緩和しており、今後は買い物目的の来港者もさらに増えるとみられる。
資金に余裕の出てきている中国人は、本土に比べて高い教育や福祉制度、香港国籍を新生児に得ようと香港での越境出産をする妊婦が後を絶たず、香港籍の妊婦が入院するベッドが不足するなど社会問題化していた。そのため、2012年4月に香港政府は越境出産を受入拒否する政策を打ち出した。越境出産は一例に過ぎず、中国人が買い占めてしまい、香港人は買い物を出来ないと言った声も少なからずあり、入国制限なども叫ばれている。高度な経済環境にあるが、面積の狭い香港には、中国人の大量流入は許容範囲を上回ることが懸念されている。観光や流入による経済効果だけを望むことは難しく、必ずと言って良いほど弊害は生まれる。一朝一夕での解決は難しいが、生活に関わる問題なだけにより早急な施策が求められている。