ノーベル経済学賞の活用
2012年のノーベル経済学賞は、アルビン・ロス米ハーバード大学教授とロイド・シャプリー米カリフォルニア大学ロサンゼルス校名誉教授に決まった。受賞理由は「安定配分の理論とマーケットデザインの実践に対する顕著な功績」である。シャプリー氏等が1962年に発表した論文「男女の結婚」により理論化し、ロス氏が現実問題へ具体化させた。マーケットデザインとは受賞理由ともなっているマッチング(組み合わせ)理論を応用し、現実の社会制度をどのように設計すればうまくいくのかを研究する分野である。
論文「男女の結婚」では、同理論の例証として男女10人ずつについて各自の好みを尊重しながらマッチング主催者が最適に組み合わせる方法を示した。具体的な手順は次のようなものである。
まず第一段階で、男性全員が第一希望の女性にプロポーズする。複数の男性からプロポーズを受けた女性は最も気に入った男性のプロポーズを受け入れる。一人の男性からだけプロポーズされた女性もそのプロポーズを受け入れる。誰からもプロポーズされなかった女性は次を待つ。
第二段階で、第一希望の女性に断られた男性たちが第二希望の女性にプロポーズする。このとき、第一段階ですでに他の男性のプロポーズを受け入れている女性も、独身として第二希望の女性に含めることができる。
このように男性たちの希望リストが最後の女性に至るまで、この手順を繰り返す。ただし、女性は前の段階でプロポーズを受け入れていても、より好ましい男性からプロポーズされれば、すでに受け入れたプロポーズを解消できる。こうして最終的に全員がパートナーを獲得できる。
したがって、どんなに人びとの好みが多様でも、安定的なマッチングが必ず存在することを示すことができるのである(ゲール=シャプレー・アルゴリズム(計算方式))。この手順のポイントは、プロポーズを受け入れてもすぐには結婚せず、最後まで保留している点である。そのため、「受け入れ保留アルゴリズム」ともいわれる。ただ、このアルゴリズムは平等性の問題を解決しない。つまり、男性側からプロポーズした場合には男性側にとってより好ましい結果となり、女性側からプロポーズした場合にはその逆となる。
ロス氏はこの問題を修正しながら米国の研修医マッチング制度に適用した。その後、このアルゴリズムの適用範囲は拡大しており、教員の配属先、公立学校の選択制度、臓器移植の患者と提供者の組み合わせ、携帯電話やテレビなどの電波周波数帯を割り当てるオークションなど幅広い分野で、取り入れられている。日本では、2004年度から医師の臨床研修制度に適用されている。
このアルゴリズムは2つの集団の最適な組み合わせを決める理論であるため、就職活動をする学生と企業、あるいは企業と企業などにおいても、全体として最も満足度が高くなるような組み合わせを決めることができる。そして、このような安定マッチングを取り入れた制度は長続きする一方で、取り入れていない制度は長続きしないことも示されている。
近年では、婚活市場において、年収や年齢、学歴などにより相手を絞る条件検索から、SNSなどのソーシャル婚活に移行しているが、条件検索だけでは確率が低く、うまくいかないケースが多いためという。また、街コンやゴルコン(ゴルフ合コン)、料理コン(料理合コン)など男女のマッチング方法も多様化しているが、これらは上記理論の身近な応用といえよう。