期待先行の回復から実感できる回復へ

6月12日に日本銀行は輸入品の価格を示す輸入物価指数を公表した。5月の円ベースの輸入物価指数は125.5と、前年同月比14.2%上昇し、2008年9月以来の高水準となった。木材・同製品(同+35.4%)や食料品・飼料(同+19.2%)、輸送用機器(同+18.8%)など、幅広い業種の輸入価格が上がった。ドル建てなど契約ベースの輸入物価指数は同4.5%低下しており、円安が輸入物価を押し上げている傾向が顕著に表れた格好である。


一方、国内の企業向け価格を示す国内企業物価指数は同+0.6%であった。輸入品の価格上昇にともなうコストアップは少しずつ価格に反映されつつあるが、まだ一部にとどまっており、多くの企業が収益の悪化という形で対応しているのが現状であろう。


円安は、一国全体でみるとプラスとなって現れるが、個々の企業にとって一様ではない。円安が進行する過程では、最初に輸入物価の上昇として現れ、輸出拡大へと効果が及ぶにはある程度時間がかかる。いわゆるJカーブ効果である。しかし、その間、企業は輸入コストの上昇に直面しながら、販売価格への転嫁も進められず、利益を削りながら対応せざるを得ない。


2013年6月のTDB景気動向調査では7カ月ぶりに景気DIが前月比で減少した。大企業と中小企業の規模間格差は2カ月連続で過去最大を更新しており、アベノミクス効果が中小企業に十分に浸透する前に、悪化に転じたことは憂慮すべきであろう。
政府がどのような政策を行うにしても、メリットとデメリットは必ず存在するが、メリットがデメリットを上回るかぎり、その政策は実行されるべきである。経済全体のパイが拡大していれば悪影響は最小限に抑えることができるものの、限られた予算の中で、デメリットへの対策をどう考えるかは、政府の経済哲学に依存することになる。今後、景気が上向いていると実感できるためにも、ふくれあがった期待を実体経済に結びつけることが肝要である。

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