円安はどこまで進むのか
2012年12月の安倍政権発足以降、進行する円安が輸入価格を上昇させている。当初、円安は輸出拡大による景気回復が期待されたが、現状では輸出量は緩やかな拡大にとどまっている。その理由として、輸出企業が円高期に生産拠点を海外に移したことで現地生産が進み、日本からの輸出が伸びにくいという構造変化が指摘されている。逆に、円安は輸入価格上昇によるコスト増加をもたらし、企業の収益環境を悪化させる弊害が目立ってきた。
基本的に為替レートは二国間の通貨の交換比率である。また、為替レートの決定にはさまざまな要因があり、その決定理論や仮説も多く唱えられている。例えば、それぞれの国の[1]インフレ率や物価水準、[2]経常収支、[3]市場に流れるマネーの量(貨幣供給量)、[4]金融資産残高、[5]金利、[6]労働生産性などが要因として有名であろう。上記の各要因は、[1]が購買力平価説、[2]が弾力性アプローチ、[3]がマネタリー・アプローチ、[4]がアセットアプローチ、[5]が金利平価説、[6]がバラッサ=サムエルソン理論、といった理論・仮説に対応する。
現実には、特定の決まった決定理論があるわけではなく、その時々によって「今回は[1]が当てはまる」「今回は[5]が当てはまる」などと考えていくことになる。しかし、いずれにおいてもベンチマークとなるのは[1]の購買力平価説(PPP)である。PPPは、「同じ商品・サービスであれば、同じ価格となる」という"一物一価の法則"を原則としており、長期的なトレンドを示しているとされる。短期的にみると、為替レートはPPPから乖離することも多いが、これまでの研究では概ね2年~3年程度でPPPが示す理論値に現実の為替レートは収斂する。
2014年12月には1ドル=121円台(東京市場終値)をつけたが、現在の円ドルレートはどの程度まで円安が進む可能性があるのだろうか。PPPは国内外でさまざま機関が計測しているが、どの物価指標を使用するかが問題となる。一般的には企業物価や消費者物価が使われるが、公益財団法人国際通貨研究所によると、企業物価に基づくPPPは1ドル=99円、消費者物価に基づくPPPは1ドル=129円と試算している。つまり、理論的には円ドルレートは99円~129円の範囲であればファンダメンタルズに基づいた為替レートとして説明可能であるといえる。もちろん、今後の日本と米国における金利やインフレ率の動向により理論値も変動するが、まだ円安水準は上限に達したとは言えない状況であろう。