国際収支構造の変化
日本の国際収支構造に新たな変化が加わろうとしている。その1つが訪日外国人旅行客の日本における消費活動である。観光庁によると、2014年の訪日外国人旅行消費の総額は2兆305億円(前年比43.3%増)で過去最高となった(「訪日外国人消費動向調査」)。また、一人当たり旅行支出額は15万1,374円(同10.7%増)でこちらも過去最高額であり、ベトナム(23万7,814円)が中国(23万1,753円)を抑えてトップとなっている。さらに、2014年の訪日外国人旅行者数は1,341万人(同29.4%増)で、中国や台湾、韓国などアジアを中心に大幅に増加した(日本政府観光局)。
訪日外国人旅行消費の内訳を詳しくみると、2014年は買物代が宿泊費を抜いて最も多く、飲食費も2割を超えている。これらの傾向はTDB景気動向調査(帝国データバンク)の結果にも表れており、『小売』や『サービス』の景況感の改善にも結びついてきた。企業からも「インバウンドの利用が地元飲食業の好況に結びついている」(日本料理店、北海道)や「10月の規制緩和(免税対象品目拡大)によるインバウンド効果で好調」(家電・情報機器小売、東京都)といったコメントが挙がり、日々の活動のなかで実感している様子がうかがえる。
政府は2020年に訪日外国人旅行者2000万人を目標に、観光庁にマーケティング戦略本部を設置するなど、ビジット・ジャパン事業を強化してきた。その成果が少しずつ実を結びつつあるといえよう。とはいえ、現在の状況は円安による恩恵を大きく受けた結果でもある。今後も継続して拡大するかどうかは、さらなるプロモーションの実施とともに、観光地だけでなく日本人の外国人観光客を受け入れる土壌の開拓にかかっている。
エネルギー輸入の拡大で貿易収支の赤字が続くなかで、2014年4月、訪日外国人の国内支出額から日本人の海外支出額を差し引いた「旅行収支」が44年ぶりに黒字に転じた(財務省・日本銀行「国際収支統計」)。これは、大阪万博の開催で訪日客が増加した1970年7月以来のことである。その後も最新の11月までに4カ月で黒字となっており、経常収支はモノの取引を通じた構造から、サービス収支や所得収支など日本のソフトパワーを生かした構造への転換が進んでいるといえよう。