交易条件指数でみえる価格転嫁力の規模間格差
2015年3月の為替レートは、1ドル=120円前後で比較的安定して推移した。ここ数年、企業は急激な円安にともなう原材料価格の上昇と、販売価格の上昇幅との間で埋めがたいギャップに直面してきた。それが、企業収益を悪化させる要因になってきたといえよう。
この傾向はTDB景気動向調査からも観察できる。同調査から仕入価格をどれだけ販売価格に転嫁できたかを示す交易条件指数を算出することが可能だ。つまり、この交易条件指数が低ければ、仕入コストを価格転換できず、収益環境が悪化していることを意味する。これをみると、日本銀行による異次元金融緩和が実施された2013年前半に交易条件指数は急激に悪化を強め、その後、為替相場の落ち着きとともに同指数も緩やかに改善する方向に進んできた。
調査が開始された2002年以降、交易条件指数は一時期を除き、概ね中小企業の方が大企業の水準を下回って推移してきた。ところが、2013年以降では、規模間格差が拡大傾向にあり、急速な仕入価格の上昇がみられたなかで、とりわけ中小企業において、販売価格への転嫁が必ずしも実施できていない実態が如実に表れている。このため、中小企業の収益環境が厳しいなかで、利益率が抑制される一因となってきたことが示唆される。
さらに、大企業と中小企業の規模間格差を拡大させる要因は為替レートの水準なのか、それとも円安に向かうスピードなのかを検証してみた。結果としては、水準とスピードのどちらも統計的に有意に影響があるものの、為替レートの急激な変化は為替水準よりも25%以上強く規模間格差の拡大を促す要因となることが判明した。
急速に進んだ円安は、輸出企業にとっては業績を改善する一助となったものの、国内需要が中心である多くの中小企業にとっては、原材料価格の上昇によるコストアップを販売価格に転嫁できず、収益を悪化させる要因となっていた。ただ、ここにきて為替レートが安定的に推移していることは、企業の抱えるリスク要因が1つ軽減されてきたともいえよう。しかし、それに代わって、人手不足にともなう人件費の増加が企業のコスト負担要因として相対的に重要性が増しており、そのための課題解決が再び求められている。