インフレ目標の達成時期後ズレ

2015年4月30日、日本銀行は経済・物価情勢の展望で、消費者物価の前年比が2%程度に達する時期について、2016年度前半頃になるという見通しを公表した。


2013年4月4日に、日銀が"異次元"金融緩和政策を導入したときには、物価上昇率2%の目標を「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早い時期に実現」と表現していた。さらに、2014年10月31日の追加金融緩和実施時には、「2015年度を中心とする期間に2%程度に達する可能性が高い」とした。


日銀は、今回の2016年度前半頃という見通しを『これまでの「2015年度を中心とする期間」の範囲内』と主張しているが、事実上、達成時期を後ズレさせたと考えるのが妥当だろう。日銀は、見通しを変更させた背景として、個人消費の回復の弱さと原油価格の急落を主な理由に挙げている。


2013年から2014年にかけて円安の進行と原油価格の上昇が消費者物価を押し上げていたが、当時は"物価は順調に上昇している"という日銀側の説明に対して、金融機関関係者からは"為替や海外要因に依存する物価上昇で良いのか?"、あるいは一般事業会社の関係者からは"輸入価格や仕入価格の上昇に直面する中小企業への配慮は考えていないのか?"といった、丁々発止のやりとりがあったことを記憶している。


そしていま、日銀関係者は"原油価格が半年で半値になるまで下落するとは予想外だった"と口を揃える。しかし、海外要因に依存する物価上昇の危うさは、すでに指摘されていたことだ。総務省が5月1日に公表した3月の消費者物価指数によると、日銀が目標指標とする「生鮮食品を除く総合」は前年同月比2.2%、エネルギー価格等も勘案した「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合」は同2.1%の上昇となっている。これは消費税率引き上げの影響を除くとほぼゼロ%であり、目標の2%には程遠いと言わざるを得ない。


とはいえ、デフレ脱却は、経済の好循環により成長を遂げていくために達成しなければならない政策目標である。日銀は市場の声に真摯に耳を傾け、これからの政策運営を進めていくことに期待したい。

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