攪乱要因となる中国経済

中国経済の成長鈍化が世界経済の攪乱要因となっている。7月から8月にかけて、景気減速や天津での爆発事故などの影響もあり、人民元相場の切り下げ介入や上海株式市場の急落を発端として世界同時株安が発生した。その結果、8月の日経平均株価は月内で3,000円超の変動幅を記録するなど、金融市場は大きく混乱した。中国による人民元安への誘導や歪んだ株価維持策の結果、日本においても輸出減少やそれにともなう生産調整の長期化、企業の投資意欲の低下、訪日旅行客数の減少などといった悪影響が懸念される。


中国政府が公表した2015年上半期のGDP成長率は7.0%で、政府の2015年成長率目標7%にぎりぎり到達する内容であった。しかし、中国のGDP統計の信憑性にはさまざまな疑念が向けられているほか、14億人の人口を抱える新興国がなぜ日本や米国、英国より数週間も早く四半期データを公表できるのかという疑問もつきまとう。


そのなかで、中国の景気を測る主要指標である中国製造業購買担当者景気指数(PMI。中国国家統計局発表)をみると、8月の同指数は49.7で3年ぶりの低水準となった。その内訳をみると、雇用指数は22カ月連続で低下、国内外の需要動向を示す新規受注指数は49.7で前月比0.2ポイント減、新規輸出受注指数は47.7であった。


また、英マークイットが発表した財新中国製造業購買担当者景気指数(財新PMI)確報値は47.3で、2009年3月以来、約6年半ぶりの低水準となっており、中国経済がハードランディングに向かっている可能性を指摘する見方も強まっている。


李克強首相が遼寧省共産党委員会書記を務めていたころ、中国のGDP統計は人為的で信頼できないと語ったという。そのため、氏は電力消費、鉄道貨物輸送量および銀行融資の3つを重視するとしていた。これらの指標をベースにファゾム・コンサルティング(英)が8月に公表した見通しでは、中国の2015年の成長率は2.8%、2016年は1.0%にとどまるとしている。


私の知人である中国人研究者も、中国経済の分析には統計情報が極めて不足しており、独自にデータを作成していかざるを得ない状態だという。さらに、政府の政策決定においても十分な統計を持っていないはずとも指摘している。信憑性に対する疑義はさまざまあるものの、形式的には中国は世界第二の経済大国と捉えられている。そのような大国が不十分な情報をもとに過度な市場介入を続ける限り、今後も中国が世界経済を混乱させる攪乱要因になると考える必要があるだろう。

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