インバウンド増で加速するかキャッシュレス社会

今夏、休暇で4年ぶりにアメリカのノースウエストの都市を訪問し、改めて驚いたことがある。もともと、カフェのコーヒー1杯でもクレジットカードで支払えるお国柄ではあるが、今回は精算時にクレジットカード読み取りのあと、タブレット端末画面を提示され、レシートを「NO」「MAIL」「PRINT」から選択する仕組みに接することが多かった。キャッシュレスに加えて、ペーパーレスも進み、そこには「現金」の気配が一層感じられなくなっていた。


翻って、日本ではどうだろう。政府は2014年6月に閣議決定した「日本再興戦略 改訂」では2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会の開催をふまえ、キャッシュレス決済の普及による利便性・効率性の向上を掲げている。これを受け、同年12月には内閣官房、金融庁、消費者庁、経済産業省、国土交通省、観光庁の関係省庁の連名で「キャッシュレス化に向けた方策」が発表されている。


その中で、とりわけ急務とされているのは訪日外国人旅行客向けの利便性向上だろう。2014年の訪日外国人旅行客数は、過去最高の約1341万人(前年比29.4%増)に達し、2015年に入っても7月までで前年同期を46.9%上回るハイペースで増加している。


前出の方策では、訪日外国人旅行客向けの利便性向上の課題として、「海外発行のクレジットカードで現金引き出しが可能なATMの普及」、「カード使用可能店舗の表示促進」、「地方商店街や観光地でのクレジットカード等決済端末の導入促進」といった5項目が挙げられている。


いずれも、自身で海外に行かれた時の体験を思い出して大きく頷かれる読者の方も多いだろう。旅行など短い滞在期間ではあらかじめ多くの現金を持っていくのは避けたいところであるし、その国の紙幣や硬貨を瞬時にうまく組み合わせ払うのはなかなか難しく、少額でも極力クレジットカード決済で済ませたいものだ。


国内では、まだまだ小規模な店舗や個人事業者の店舗では、クレジットカードが利用できないケースも珍しくない。また、今後、訪日外国人旅行客2000万人とともに「ゴールデンルート」と呼ばれる東京-富士山-関西以外への回遊を目指すなら、交通機関での利用や地方における観光地や商店街での利便性向上は不可欠だろう。


こうしたキャッシュレス化は、訪日外国人旅行客にとってだけではなく、われわれにとってもメリットは大きい。事業者にとっては、現金を取り扱う煩わしさやコスト・リスクを軽減できるうえ、カード利用データの蓄積は販売促進や次の事業展開にも活用できるデータとなる。


もちろん、一方でセキュリティ強化や消費者教育など取り組むべき課題も多いが、『おもてなし』の促進をきっかけに、より安全な利便性の高いキャッシュレス社会となることを期待したい。

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