軽減税率を導入する目的は何だろうか?
2017年4月予定の消費税率10%への引き上げに対して、食料品などの負担軽減策を巡って再び議論が混乱している。負担軽減策は"軽減税率"なのか、"給付付き税額控除"なのか、または与野党双方から批判を浴びた財務省案の"税還付方式"なのか。
財務省案に対しては、消費税率を引き上げるべきか否かではなく、どのような形で引き上げるべきかという方向に議論を持っていくために、あえてマイナンバー制度と絡めた非現実的な方法を提案したのではないかという"深謀遠慮"説まで登場している。
このように議論が混乱する原因は、そもそも何のために負担軽減策を導入しようとしているのか、目的が不明確なことにある。
消費税には低所得者ほど税負担感が増す"逆進性"の問題がついて回ることから、低所得者の負担を軽減することを目的とするのか。それとも、中高所得者を含めて生活必需品である食料品の負担を軽減することを目的とするのか。
もし、目的が低所得者対策にあるならば、より効果が高いのは低所得者に直接的に影響を与える"給付付き税額控除"や"税還付方式"であろう。ただし、そのためには所得把握が必要となるため、その具体的方法を議論していくことになる。この場合、"軽減税率"の導入は愚策といえる。
他方、目的が低所得者対策ではなく、より多くの人の生活必需品に対する負担軽減にあるならば、より効果が高いのは"軽減税率"となろう。ただし、そのためには対象品目の選定とともに、税額計算が煩雑になることへの対応としてインボイス方式の採用が重要になる。この場合、"給付付き税額控除"や"税還付方式"の導入は愚策といえる。
本来、租税に関する議論は経済合理性に基づいて行われるべきであろう。しかしながら、現状は完全に政治問題と化してしまっている。
この状況に対して、経済学研究者の落胆ぶりは非常に大きなものがある。10月に行われた日本経済学会でのパネルディスカッションは、「なぜさまざまな研究成果が政策に生かされないのか」が大きなテーマとなっていた。その原因は、政策立案者や政治家だけでなく、経済学者にもあろう。とはいえ、やはり政策を考える際には冷静で論理的な議論がもっと必要である。