企業不祥事とサイロ・エフェクト
なぜ組織で働く人びとは時として愚かとしかいいようのない集団行動をとるのだろうか。また、なぜ我々は自分に何も見えていないことに気がつかないのだろうか。企業の不祥事や不正について、ニュースで取り上げられる場面が増えているのではないかと感じられる。
社会がますます複雑化するなかで効率的に対応するため、組織の細分化と専門化が進むことで、誰も自分のサイロ(所属組織・専門分野)以外で何が起きているか知らず、また知ろうともしなくなってくる。そして、そのような仕事のやり方を当たり前のものと捉え、別のやり方があるのではないかと考えることもしない。このような現象は"サイロ・エフェクト"と呼ばれる。
サイロは物理的な建物や組織(部署など)の中にも存在するが、我々の心の中や社会集団の中にも存在する。そして、サイロは縦割り主義を生むと同時に、視野を狭めることにもなる。
もちろん、複雑化する社会で効率的に仕事を遂行するためには、組織の専門化は不可欠である。そのうえで、サイロの弊害をどのように取り除いていくかが重要となるが、最新の研究によると次のような対応策が有効とされている。
- 大規模な組織においては部門の境界を柔軟で流動的にしておくのが好ましい
- 組織は報酬制度やインセンティブについて熟慮すべき
- 情報の流れが重要
- 組織が自分たちの世界を整理するのに使っている分類法を定期的に見直し、それを試してみる
つまり、組織のメンバーが内向きになったり、守りの姿勢になるのを防ぐには、部門間で交わる機会を増やす必要がある。そして、協調重視の報酬制度をある程度取り入れなければならない。全員がより多くのデータを共有し、誰もが自分なりに情報を解釈し、そうして生まれる多様な解釈に組織が耳を傾けるようにする。また、分類システムがパターン化し硬直化すると、企業は時代遅れになったり、感度が悪くなったり、あるいは社員が不正行為に走ったりする。分類の方法やシステムのパターンを変えるだけでイノベーションが生まれることもある。あるいは、少なくとも社員の視野は広がるはずである。
専門化したサイロで活動する方が短期的には効率的に進むが、往々にして、多くの組織では効率化を追求し過ぎるとかえってうまく機能しなくなることも考慮しなければならない。細分化されたスペシャリスト的行動パターンが支配する組織では、しばしばリスクやチャンスが見逃される。
このようなサイロにコントロールされるのか、あるいは自らコントロールするのかは、自分次第である。サイロを自らコントロールする第一歩は、自分が日々、無意識のうちに身の回りの世界をどのように区切っているのか、ぐるりと見回してみることである。つまり、組織や専門分野においてインサイダーとアウトサイダーの両方の視点で眺めることである。それから、想像力を働かせて、別の方法はないか考えてみる。これは小さな一歩であるかもしれないが、誰もが踏み出せる一歩でもあろう。