労働実態を反映した失業率の水準とは?

8月30日に公表された労働力調査(総務省)によると、2016年7月の完全失業率は3.0%となり、1995年5月以来、21年2カ月ぶりの低水準であった。就業者数は前年同月比98万人増で20カ月連続、完全失業者数は同19万人減で74カ月連続の改善となった。


約4割の企業が人手不足を感じているなか(「人手不足に対する企業の動向調査」帝国データバンク、2016年8月25日発表)、雇用環境はますます需給がひっ迫してきている。


また、国際比較可能なようにOECD(経済協力開発機構)が加盟国の失業率をILO(国際労働機関)基準に近づけるよう調整を行った失業率(HUR)でみても、日本の失業率は最も低くなっている。各国の政府が就業者数や失業率を成果として注目するなかで、日本の失業率の低さは際立っている。


このようななかで、内閣府が8月に興味深い分析結果を公表した。失業者の定義には狭義のものから広義のものまであるが、米国における概念を基に、労働力調査の結果を用いて日本における失業率を最も広義のモノサシで算出したものだ。


通常の失業率の定義は、


  完全失業者÷労働力人口  (U3)


であるのに対して、最も広義の失業率の定義は以下となる。


 (完全失業者+周辺労働力[1]+不本意非正規[2])÷(労働力人口+周辺労働力) (U6)


U6の定義で求められた2016年5月の失業率は8.4%となり、同月のU3の失業率3.2%と比較すると、5.2ポイントの差として表れている。もっとも、いずれの失業率においても、完全失業者数の減少によって2010年以降緩やかな低下が続いていることも事実である。


アベノミクスは柱の1つとして「介護離職ゼロ」を掲げているが、広義の失業率の定義によると、介護離職者の増加は失業率の上昇を意味する。


日本では、「仕事は美徳」や「働けるだけでありがたい」という考え方が残っているのに対して、個人主義が発達した欧米では「完全雇用が達成されようともその仕事が自分の望まないものでは意味がない」という考え方が浸透しているともいわれる。やむなく求職活動をやめた人や、望まない雇用形態で就業しているという状態も失業率に反映できれば望ましい。そのため、アベノミクスに対する評価には、このような指標を用いることも重要ではないだろうか。



[1] 周辺労働力:就業希望であり、仕事があればすぐに就くことができ、過去1年間に求職活動を行ったことがあるが、適当な仕事がありそうにない、または出産・育児、介護・看護のため仕事があっても続けられそうになく、求職活動を行うことをやめた者
[2] 不本意非正規:非正規雇用者のうち、現職の雇用形態についている理由を、正規の職員・従業員の仕事がないから、と答えた者

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