トランプ大統領の保護主義政策の帰結

1月21日、東京で開催された日本国際経済学会に参加した。議論となったのは、もっぱらポピュリズムの台頭と米国のTPP撤退による日本への影響であった。とりわけ、トランプ大統領の政策に対して、多くの研究者が共通して懸念していたことが印象に残った。


1月18日~31日に実施したTDB景気動向調査(帝国データバンク)においても、回答者から寄せられたトランプ大統領に関連したコメントは、調査期間の後半になるほど増加した。先行きの見通しに対するコメントでは200件に達している。企業規模の大小や業種を問わず、多くの企業がトランプ大統領の打ち出す政策を注視している様子がうかがえる。


先の国際経済学会では、トランプ大統領が掲げている政策のうち、いわゆる保護主義的な通商政策への懸念が強かった。保護主義の台頭は、輸入拡大による雇用喪失や賃金低下、所得格差の拡大など国内経済への負の影響に対する人びとからの要求とも言えよう。しかし、実態は関税削減の限界と非関税障壁の増加であり、保護主義は結果として、世界貿易の縮小を通じた世界経済の低迷をもたらすことになる。


しかし、所得格差の拡大は本当に貿易によるものだろうか。IMF[1]によると、所得格差拡大への影響は、IT技術などの技術進歩による労働代替が最も大きいという。また、貿易と直接投資で構成されるグローバル化による影響では、貿易よりも直接投資がより強い所得格差拡大効果を持つ。直接投資は、投資を行う国において高度人材への需要が拡大するため、高度人材と未熟練労働者との間で起こる賃金格差の拡大が背景となっている。


近年、世界貿易機関(WTO)などによって支えられてきた世界貿易体制は機能低下に陥り、結果として自由貿易協定(FTA)やメガFTAが進展した。
 米国が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から撤退した場合、日本がかかわるさまざまなFTAやメガFTA、あるいは有志国による分野別ルール構築交渉であるプルリ交渉における、日本の発言力低下が懸念される。


米国のTPP離脱への対応として、いくつかの戦略が考えられる。(1)米国抜きTPP(TPP11)、(2)TPP11+関心国(韓国、タイ、フィリピン、インドネシア、台湾)、(3)日米FTA、(4)メガFTAとプルリ協定の推進によるWTOマークIIなどであるが、米国のいない多国間交渉にどの程度実効力がともなうか未確定な部分も多い。


これらの枠組み構築において、日本の役割が期待されているものの、そのためには閉鎖的な分野の市場開放および構造改革が重要となろう。



[1] Jaumotte, Florence, Subir Lall, and Chris Papageorgiou, "Rising Income Inequality: Technology, or Trade and Financial Globalization?", IMF Economic Review, Vol.61, No.2, 2013

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