大相撲、人気復活にみる取り組み
19年ぶりの日本人横綱の誕生、その新横綱・稀勢の里の奇跡の優勝で幕を閉じた大相撲3月場所は、大いに盛り上がった15日間だった。終盤戦に黒星を喫した際に大ケガを負い、休場は不可避と言われた稀勢の里。だが、彼は千秋楽で相撲史に残る逆転優勝を遂げ、新横綱という大きな重圧を背負いながら、見事に責務を果たした。優勝インタビューで人目もはばからず涙した姿に、感動を覚えたファンの方も多かったのではないだろうか。
そんな大相撲だが、日本相撲協会が3月31日、2016年度決算を承認したとのニュースを目にした。それによると、大相撲人気により入場券の売り上げが好調で、2016年度は2期連続の黒字(経常増益)を達成。6場所中5場所で優勝力士が変わり、連日白熱した取り組みが多かったことなどで、全90日間の取り組みのうち、88日で満員御礼を記録したほか、巡業や関連グッズ販売も堅調だったことなどから、黒字幅も拡大したようだ。
公開されている2015年度の決算をみると、売り上げに相当する経常収益は約115億円で、2.5億円の黒字。2016年度はこれらを上回ることから、業績面でみると、ここ数年で大相撲人気は確かなものになっているといえるだろう。
大相撲というと、筆者の年代ではウルフこと千代の富士から1990年代に始まった若貴ブームの記憶が強く残っている。特に、社会現象にまでなった若乃花、貴乃花の兄弟フィーバーぶりに当時は人気のすさまじさを感じていたが、今の大相撲もそれに迫る人気ぶりのように思う。
2011年度には一連の不祥事などが続き、史上初めて3月場所の開催が中止され、来場者数も急減、経常収益は63億円まで落ち込むなど、相撲界にも厳しい冬の時代があった。
しかし、そこから日本相撲協会を中心として、強い力士を育てようとする各相撲部屋の取り組みで、魅力的な日本人力士が増加したこと、あるいはツイッターなどのSNSの積極活用、地域住民とのふれあいやファンサービスの機会増加などは、離れていたファンを取り戻すとともに、新たなファン層の開拓にもつながった。たとえば、相撲好きの女性を意味する「スー女」なる言葉が生まれ、力士にユニークなあだ名がつけられていることなどは、古き時代の大相撲にはなかったことで、今っぽさを感じて興味深い。
一時の低迷、苦境に陥ったなかで、原点に立ち返り、本来の相撲の充実とファンを大事にする地道な取り組みで、人気、業績ともにV字回復を遂げた大相撲。2017年は4横綱時代が始まったことで、さらに人気は高まっていくだろう。次は両国国技館での5月場所、楽しみに待っているファンにどんな名勝負を見せてくれるか、注目したい。