切磋琢磨は誰とするのが良いのか?
企業にとって、社員が仲間や同僚と互いに切磋琢磨し、成長することは重要だ。しかし、相手を誤ると組織としても個人としても逆効果になることもある。いわゆる"負のピア効果"である。
"ピア効果"とは、能力や意識の高い仲間が同じ環境に集まり、お互いに切磋琢磨することで、その組織のレベルアップとともに個人の成長にも相乗効果をもたらす効果のことである。
これは"正のピア効果"であるが、一方で、組織の構成などによってはお互いに悪い影響を及ぼしあうことで"負のピア効果"が働くケースもある。
したがって、より良い"ピア効果"を得るためには、"誰と切磋琢磨するか"が重要になってくる。競争相手との能力の差が大きいと、一方は諦めて努力を放棄し、他方は慢心して向上意欲を失うことになってしまう。そのため、競争相手は、近い能力を持つ者同士であることが望ましいと言える。
"負のピア効果"については、2017年3月に経済産業省所管の経済産業研究所から面白い研究結果が発表された[1]。この研究では「埼玉県学力・学習状況調査」の個票データを用いて、学力についてのピア効果を検証している。
実証結果によると、平均的に成績の良いクラスに1年間所属した生徒の成績は、前年度の初めと比べて低下する傾向がある、という負のピア効果の存在が示された。
この研究では、"負のピア効果"の理由として、「成績の良い同級生がいることによって、自分の相対的な学力が低いという自己認識を持ち、学習意欲が低下するという可能性」を指摘している。そのため、「教育の期待収益率を高めるためには、本人の潜在的な能力が低いという自己認識を持たせないような指導を行うことが重要」になるという。
この研究結果が示唆することは、企業においても組織や個人の能力向上に対して応用可能であろう。企業が社員の競争を促す場合に、適切な人員配置や競争環境を整えることで、組織内を疲弊させることなく、高い"正のピア効果"を得ることが可能となる。
そして、この競争がもたらす利点は、競争に勝った者が「得意分野」の自信を得られるだけでなく、敗れた者は「苦手分野」だったと見切りをつけて新たな分野に挑戦するきっかけにすることもできよう。本当に得意なことや個人の特性を見つけ出すためには、より適切な相手と切磋琢磨し、常にチャレンジすることがカギになるのである。
[1] 外山理沙子・伊藤寛武・田端紳・石川善樹・中室牧子(2017)「負のピア効果-クラスメイトの学力が高くなると生徒の学力は下がるのか?-」RIETI Discussion Paper Series 17-J-024