謝罪の流儀

人はどのように謝罪すれば許されるのだろうか。過去には、不祥事後の見事な謝罪により、売り上げを大きく伸ばした企業がある。一方で、謝罪後もバッシングが収まらず、苦境が続くケースも多い。


企業不祥事が起こった際の謝罪会見を報道で接するたびに、こうした疑問が湧きあがる。


そもそも謝罪とは、それまでに構築したお互いの信頼関係が故意または過失によって壊れた場合に、信頼関係を回復するために行うことである。しかし、同じように謝罪しても、受け入れられる場合と受け入れられない場合がある。両者にはどのような違いがあるのか。


経済学には「謝罪の経済学」という考え方がある。伝統的な経済学的には、金銭的または非金銭的な負担をともなわない謝罪は"チープトーク"と呼ばれ、関係者に利害の一致がみられる場合を除いて、信頼は回復できないと考える。したがって、謝罪が信頼を取り戻すためには、金銭的・非金銭的コストをともなうことが有効といえる。


他方、2017年のノーベル経済学賞受賞分野となった行動経済学における研究では、必ずしもコストをともなう謝罪をすれば許されるわけではない、ということも明らかとなってきた。


例えば、ネットショッピングでは顧客の付した評価がその店の売り上げに大きく影響する。そのため、店側としては低評価をつけた顧客にその評価を取り下げてもらいたいはずである。そこで、どのような謝罪をすれば取り下げてもらえるか、Abeler et al.(2010)[1]は世界最大のネットオークションサイトであるeBayで実験を行っている(実験はドイツのeBayで実施)。


そこでは、サービスが悪いことに不満で低評価をつけた顧客に対して、評価を取り下げてもらうよう3つのタイプのメールを送った。

  1. 誠実で丁寧な謝罪文のみで、評価を取り下げて欲しいというメール
  2. 2.5ユーロ支払うので評価を取り下げて欲しいというメール
  3. 5.0ユーロ支払うので評価を取り下げて欲しいというメール

顧客が合理的ならば、5.0ユーロを受け取ったうえで取り下げるだろう。しかし結果は、誠実で丁寧な謝罪文のみの場合が最も取り下げ率が高く44.8%、次いで5.0ユーロ支払う場合で22.9%、最も低い取り下げ率だったのが2.5ユーロ支払う場合の19.3%であった。


この実験によると、金銭的報酬の代わりに誠実で丁寧な謝罪文を受け取った顧客の方が、評価を撤回する確率が2倍以上高いのである。


これは示唆に富む結果であろう。不十分な金額ならば、出さない方がましなのである。企業は社会的な存在でもある。多くの人びとから許しを得るためには、誠実で丁寧な謝罪が最も有効な方法である。



[1] Johannes Abeler, Juljana Calaki, Kai Andree and Christoph Basek, "The Power of Apology", Economic Letters, 2010, Vol.107(2), pp.233-235

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