人生100年時代の金融老年学

2017年も末に近づいた頃、銀行や証券、保険など金融業界で一躍注目度を高めた言葉がある。フィナンシャル・ジェロントロジー(金融老年学)である。


金融老年学とは、高齢者の経済活動や資産選択など、長寿・加齢によって発生する経済・金融取引が社会経済システムにどのような影響を与えるかを研究する分野であり、特に日本においては超高齢社会と金融の関わりが主なテーマとなる。


きっかけは、金融庁が次年度にいかなる方針で金融行政を行っていくかを示す「金融行政方針」において、初めて次のような文章が記述されたことにある。


「高齢投資家の保護については、これまでも販売会社における態勢整備が進められているが、フィナンシャル・ジェロントロジー(金融老年学)の進展も踏まえ、よりきめ細かな高齢投資家の保護について検討する必要がある」
              (「平成29事務年度 金融行政方針」2017年11月10日公表)


金融行政方針では、世帯主が60歳以上の世帯が全世帯の家計金融資産の6割以上を保有し、金融資産のほかにも住宅や土地などの実物資産を多く保有していることを指摘しつつ、退職世代の金融資産の運用・取崩しをどのように行い、幸せな老後につなげていくかを課題として挙げている。


一方、日本における平均年齢は2015年の46.4歳から2030年には50.0歳に上昇すると予測されている。また、65歳以上人口比率は2030年に30%台へ達し、なかでも100歳以上人口は、2015年の6万2,000人から2030年に19万2,000人、2040年には30万9,000人に増加するとみられる(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」)。日本の高齢化は今後も一段と進んでいく見通しである。


こうしたなか、政府は「高齢社会対策大綱」(2018年2月16日閣議決定)において、「高齢期に不安なくゆとりある生活を維持していくためには、それぞれの状況に適した資産の運用と取崩しを含めた資産の有効活用が計画的に行われる必要がある」として、金融老年学を踏まえて、「認知能力の低下など、高齢期にみられる特徴に一層の対策を図る」としている。


これからは「人生100年」を念頭にした人生設計が必要になるのかもしれない。そこでは、企業にとって、顧客との関係性において長期継続的な視点もより重要となってこよう。いま、政府や金融庁が促すまでもなく、さらに進む超高齢社会に対応したビジネスモデルや社会経済システムの構築が求められているのではないだろうか。

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