職業人生を豊かにする"性格スキル"を伸ばす
多くの企業において、人材育成は重要な課題であろう。こうしたなかで、近年"性格スキル"に対する関心が急速に高まっている。
従来、心理学や経済学の分野では、人間の能力は学力テストで測ることができる認知能力と、学力テストで測ることができない非認知能力に分けられるとされてきた。
2000年にノーベル経済学賞を受賞したヘックマン・シカゴ大学教授(米)は、これらの研究をさらに発展させて、遺伝的・先天的と捉えられがちな認知能力や非認知能力という呼び方を、それぞれ後天的に伸ばせることを意味する認知スキルおよび性格スキルに変更することを主張している。
ヘックマン教授は『幼児教育の経済学』(東京経済新報社、2015年)などでも一般に知られ、幼児期における教育の重要性を具体的に明らかにし、日本の成長戦略にも大きな影響を与えている。
幼児教育の重要性を強調しすぎると、幼児期を逃すと手遅れになってしまう、という見方を加速させるおそれもある。しかし、同教授は、2つのスキルを形成するうえで幼児期は重要であるが、性格スキルは認知スキルと比べて年齢を重ねても概ね伸びしろが大きいことも明らかにしている。
また、性格スキルは幅広い学歴・職業で共通して重要である。言い換えれば、性格スキルを高めることでどのような道に進もうとも、職業人生を歩んでいけるといえよう。
性格スキルは"ビッグ・ファイブ"という形で分類されることが多い。具体的には、探求心や好奇心の強さを表す「開放性」、目標に向かって粘り強く努力する「真面目さ」、社交性や積極性を意味する「外交性」、相手のことを考えたり思いやる「協調性」、そして「精神的安定性」である。
ビッグ・ファイブのうち、特に仕事の成果(業績)と最も強く関係しているのは「真面目さ」であることが知られている。また、賃金との関係では「真面目さ」と「精神的安定性」が強い。さらに、現状の長期雇用を前提とする日本企業においては「協調性」も重要となる。
実は、「真面目さ」と「精神的安定性」は、10代よりも20代・30代で大きく伸びることが分かっているほか、「協調性」は50代以降で急激に高まっていくとされる。つまり、日本での職業人生において大切となる性格スキルは、大人になってから十分に鍛えることが可能なのである。
なかでも「真面目さ」は人生を豊かにする最重要スキルともいえる。そして、「真面目さ」は以下のように定式化される。
真面目さ=情熱×粘り強さ
情熱=興味×目的
したがって、「真面目さ」を伸ばすには、対象に興味を持たせ、目的をはっきりさせることがカギとなる。