金融政策には説明力強化が重要
日本銀行は7月31日、政策委員会・金融政策決定会合を開き、政策金利のフォワードガイダンスを導入することを決定した。フォワードガイダンスとは、前もって将来における金融政策の方針を中央銀行が表明することで、非伝統的な金融政策のひとつである。
同日に日銀が公表した「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」において、フォワードガイダンスは以下のように記述されている。
「日本銀行は、2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している。」
しかし、この内容に関して関係者の間ではさまざまな疑問が呈されている。この短い文章には、表現があいまいなだけでなく、不明点が多いためであろう。
第一に、あえて消費税率引き上げの影響について記述したのはなぜなのか?もしかすると2019年10月という年月に何らかの意図が込められているのではないだろうか、という疑問である。
第二に、「当分の間」とはどの程度の期間を想定しているのか?
第三に、「現在のきわめて低い長短金利の水準を維持」について、「現在の」とはいつの時点のことを指すのか?あるいは一定期間を含めた最近のことを指しているのだろうか。
第四に、「きわめて低い」という表現は、長短金利の水準は十分に低く、これ以上の金利低下を日銀は望んでいないということを暗に意味しているのではないか?そうであるならば、長短金利の上昇を黙認する意思表明と捉えられるのではないか。
そして、第五に、「長短金利の水準を維持」とは、「現在の」と「きわめて低い」のどちらに係る表現なのか?などの疑問である。
こうした疑問に関して、フォワードガイダンスの理論的背景や各国中央銀行の動向などを含めて政策委員会に提案した事務方に聞くと、具体的な定量的表現よりも、今後の経済動向の変化など不確実性に柔軟に対応できる定性的表現とすることをより重視したようだ。
しかし、結果的にメッセージとしては分かりにくいものとなったことは否めない。実際、決定会合で反対票を投じた政策委員は2名いた。原田委員は、物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入するべきとして反対した。片岡委員は、2%の目標を早期に達成する観点から、長短金利ではなく、中長期の予想物価上昇率に関する現状評価が下方修正された場合に追加緩和手段を講じるとのコミットメントが適当であるとしている。
現在の金融政策は過去に経験したことのない挑戦的なものとなっている。それだけに、日本銀行は多くの人が理解できる分かりやすい表現で説明することが重要ではないだろうか。