EVの未来と課題

これまでの自動車産業が、根本から変革するかもしれない。経済産業省の官民協議会は7月24日、2050年までに日本メーカーが世界で販売する乗用車を、全てモーターを使用した「電動車」とする目標を打ち出した。乗用車1台当たりの温室効果ガスを、10年比で8割程度削減する事が目標だ。1908年に米フォードが自動車の大量生産を始め、内燃機関が中心となってきた近代のモビリティ産業が根底から覆る、大きなパラダイムシフトがいよいよ現実味を持って進もうとしている。


尤も、電動車とは電気自動車(EV)だけを意味するものではない。電動車はEVの他に、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池自動車(FCV)なども含んでいる。特にHVやPHV、FCVなどは日本メーカーの「お家芸」だ。それでも、日本の各完成車・部品メーカーが危機感を隠せないのは、電動車の中でもとりわけモーターのみを使用する電動車「EV」へのシフトが、世界で急速に進んでいるからだろう。欧州ではフランスが2040年までにガソリン車とディーゼル車の国内販売を禁止する方針を打ち出したほか、世界最大市場である中国もNEV規制(電動化義務付け)を打ち出した。現状では、世界の自動車販売台数ではHVがEVを上回るものの、30年には逆転し、35年にはEV販売台数が630万台に上る予測もある。加えて、EVはモジュールさえ揃えば簡単に組み立てられることから、中国などで新興企業の参入が相次いでおり、これも各社でEV戦略を急ぐ要因の一つだろう。


ただし、EV普及が今後も急速に進むかは未知数だ。まず、EVに必要なバッテリーにはリチウムやコバルトなどの希少金属を使用するが、これらは安定供給が難しい。また、内燃機関に比べて充電時間や走行可能距離に課題を残すほか、有害物質を多く含む廃電池の処理に伴う環境問題も注視しなければならないなど、現状では課題も多く残るからだ。


加えて、EVを含む電動車は水害などの災害や環境変化に弱い点も、EV普及の妨げになるかもしれない。先般発生した平成30年7月豪雨(西日本豪雨)では、浸水したHVやEVに搭載されたバッテリーによる感電の危険性が指摘されるなど、一度水害に巻き込まれると取り扱いが極めて難しくなる。加えて、寒冷地や砂漠地帯、各インフラが未整備な地域では、走破性や耐久性に優れた自動車が好まれて使われるなど、国や地域によっても売れ筋は異なってこよう。


このように考えると、今後の急速なEV化の進展にも、まだまだ課題が残る。また、EVの普及により需要が増加する電気の作り出し方も、温室ガス削減目標を踏まえると大きな課題となりそうだ。

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