重商主義の復活を彷彿とさせる「貿易戦争」
米国と中国における貿易摩擦が激しさを増している。
8月23日、米国のトランプ政権は中国の知的財産侵害に対する制裁関税として、半導体など中国からの輸入品160億ドル分に25%の関税上乗せを発動した。一方、中国も同規模の追加関税をかけることを表明している。
さらにトランプ大統領は、第3弾として2,000億ドル分の輸入品に対する関税上乗せを実施することも発表した。
貿易を通じて、それぞれの国や地域は得意分野を生かしながら、自国で不足しがちな物資や製品を互いに補い合うことができる。こうして両国が得意分野を交換することによって、自国だけで生産するよりも多くの財やサービスを得ることが可能となり、両国ともにより豊かになることできる。これが「自由貿易」によるメリットである。
この自由貿易の有用性を理論的に支えているのが「比較優位」の原則である。比較優位(または比較生産費説)は、18~19世紀のイギリスの経済学者であるリカードが提唱した考え方であるが、いまでは中学校の教科書にも登場し、高等学校の政治経済や現代社会などでは必修となっている。つまり、日本で学校教育を受けた多くの人が一度は学習している考え方ともいえる。
また、比較優位は国レベルの貿易だけでなく、個人間や企業規模間、地域間など、経済活動のあるところではどこでも応用可能な考え方である。
言うまでもなく、貿易収支の黒字が良く(利益)て赤字が悪い(損失)という、重商主義的発想は誤りである。まして、二国間の貿易収支に固執するのは比較優位を理解していないことの証左ともいえよう。
国際社会は、帝国主義に基づく植民地政策、二度の世界大戦を経て、重商主義から決別してきた。さらに、各国は、失業やインフレーションなどの解消を理由に経済ナショナリズムと結びつくなかで、自由貿易を放棄して保護貿易主義に傾倒する「新重商主義」とも、距離を置いてきたはずである。
しかしながら、自由貿易による便益は消費者に広く薄く及ぶ一方、特定の生産者に便益の減少が集中するという特徴もある。そのための解決策として、関税引き上げよりも補助金の方が社会全体の便益を押し上げることも明らかとなっている。制裁関税とそれに続く報復関税の応酬は、世界貿易を萎縮させ、最終的には米中両国を含む各国国民の便益を減少させることになろう。