経済学における"幸福"とは

8月下旬、年に一度開催している経済研究会に参加してきた。参加者はさまざまな大学で経済学の教鞭をとっている錚々たるメンバーで、今回、私は景気動向調査で実施した「保護貿易に対する企業の意識」をテーマとして報告したが、侃侃諤諤の非常に白熱した議論を展開でき、とても有意義な時間であった。


さらに、共通論題「科学技術は人を幸福にするのか」をテーマとしたパネルディスカッションでは、討論司会者を務めさせてもらった。そこでは経済学における"幸福"とは何かについて、さまざまな意見が寄せられた。


例えば、自動運転に関する技術の進展やAI(人工知能)の発達が、人びとの幸福感にどのような影響を与える可能性があるかについても議論された。これらは、科学者や技術者だけでなく、経済学や心理学、脳科学といった分野における研究者などが率先して取り組むべき課題であろう。


人の幸福は、経済的な豊かさだけでなく、家族や人との関わりなど個人によって多種多様である。また、経済学と心理学が融合した行動経済学の一分野である「幸福の経済学」も活発だ。


従来の経済学において、消費者の効用(満足度)に影響を与える要素として、選択の自由がある。そのため、通常、消費者に豊富な選択肢が与えられることが消費者の満足度を高めるとして消費理論などは構築される。しかし、消費者は多すぎる選択肢を前にすると、場合によっては購入を諦めることもありうる。


一方で、選択肢が少ないほど幸福を感じるという心理学の研究もある。この問題は、マーケティング分野における認知的負荷とも絡んでくる。認知的負荷とは、消費者に判断力を過剰に要求された結果、十分な意思決定ができなくなることである。経済学では、多すぎる選択肢に直面したとき、消費者は別な選択をしたときに得られる満足度(機会費用)の方が高くなるかもしれないと考えはじめると、自身の判断の許容範囲を超えてしまい、購入の選択ができなくなってしまうとみなすのである。


こうした購買行動に対しては、選択肢が減ったように見せることなく選択の負荷を減らすという、意思決定の単純化が重要となる。


群馬県高崎市での経済学を中心とした研究会であったが、議論された範囲は広く、非常に楽しい時間を過ごすことができた。

このコンテンツの著作権は株式会社帝国データバンクに帰属します。著作権法の範囲内でご利用いただき、私的利用を超えた複製および転載を固く禁じます。