「ぎぼむす」にみる"機会費用"と"仕組み"ビジネス
2018年夏の大ヒットドラマといえば、「ぎぼむす」こと『義母と娘のブルース』であろう。本ドラマでは、家族や親子におけるさまざまな形や在り方を投げかけるとともに、ビジネス感覚を養う多くのヒントも隠されていた。その結果が、視聴率は放送とともに右肩上がりで推移し、さらに録画後の視聴を示すタイムシフト視聴率もほぼ2桁台で続くなど、高い人気につながったのではないだろうか。
ビジネス感覚についていうと、その典型が「機会費用」と「"仕組み"を売るビジネスモデル」に関する場面である。
主人公が辞表を提出したとき、会社は年俸の引き上げを提案し慰留していた。主人公は年俸10億円を求めたが、その際の台詞が「私の娘はべらぼうにかわいいのです。その笑顔には少なく見積もっても1,000万の価値があります。私が年に100回彼女を笑わせれば10億になります。それを棒に振れとおっしゃるなら10億でお願いします」だった。
これは正に経済学でいう「機会費用」の考え方である。限られた時間のなかで、仕事を続けるか辞めるかという2つの選択において、一方を選ぶと他方は諦めなければならない。したがって、「辞める」ことによって得られる利得が年間10億円であるならば、続けるための潜在的なコストは10億円となる。
こうした"選択"は、ビジネスだけでなく、人生のあらゆる場面で起こる。そのときには、選択した結果として得られる利得が、他の選択をしていれば得られたであろう利得、つまり選択しなかったことによるコストを上回る必要があることを示している。
また、「"仕組み"を売るビジネスモデル」に関しては、アニメを通じたキャラクタービジネスを描いた場面でみられた。アニメ自体だけでなく、アニメに登場する道具などの派生商品による販売機会の拡大である。これらは正に"仕組み"を売っていることにほかならない。
こうしたビジネスモデルは、キャラクタービジネスに限らない。例えば、アップルのiPhoneはiTunesと組み合わせたビジネスであるほか、ライドシェアリングの仕組みを構築したウーバーや、メンテナンスを含めたタイヤ管理の最適な組み合わせとしてタイヤソリューションを提供するブリヂストンなど、数多くみられる。つまり、モノやサービスを単体で売るだけではなく、"仕組み"自体を売ることが非常に重要となるのである。
2018年の夏は「ぎぼむす」に本当に夢中になってしまった。ヒューマンドラマとしての完成度に加えて、こうした経済的な観点からも非常に面白いドラマであった