統計不正の行きつく先

国などが行う統計調査で問題が相次ぎ発覚している。発端は厚生労働省の「毎月勤労統計」で、本来、東京都の従業員数500人以上の事業所に対して全数調査を実施すべきところ、対象事業所の3分の1を抽出して実施していたことであった。


その後、公的統計のうち特に公共性が高く重要な56の基幹統計のうち、実に23もの調査で不適切な事例が見つかった。基幹統計は、毎月勤労統計のほか、国勢調査や国民経済計算など国の根本を把握するものであり、調査手法や対象、項目を変更するには総務大臣の承認を得る必要がある。


このような統計調査で多くの問題が起こった本質的原因は、国の統計職員の人員・予算不足、各省庁の縦割り文化にある。各省庁の統計職員数は、公的統計のあり方が議論された2004年当時の6,241人から、2018年は1,940人へと約70%削減されてきた。人口10万人当たりでは1.5人となっており、米国4.1人、英国5.6人、ドイツ2.8人、フランス9.1人、カナダ15.0人など、他の主要国と比較して極端に少ない人数で行われていることが分かる。


現在はビッグデータが重要な時代であり、多くの国では統計学の博士号などを有する統計専門家が公的統計の調査業務に従事し、高い収入を得ている。しかし日本では、基幹統計においても人員・予算の削減が図られ、属人的なスキルに依存するなかで、満足な仕事もできなくなっているのが実状である。


今回の統計不正問題では、日本で最大の経済学会である日本経済学会が統計不正を"事件"として深刻な問題と捉えた声明を発表[1]したほか、Financial Timesなど海外メディアにおいても報道されるなど、日本の統計に対する信頼性を揺るがす事態へと発展している。


データは「21世紀の石油」と言われる。データ流通にはその品質が重要であり、国家統計はその中でも最高のものとなるはずである。統計不正問題で最も懸念されるのは、国民の間で「国の統計は信用できない。信じられるのは自分の感覚だけだ」という意見が拡大することである。しかし、一部のネット上などでは、すでにそうした見方も増えつつあるようだ。


今回の統計不正問題では、個人をバッシングしたところで何の解決にもならない。今やるべきことは、統計調査に携わる人材や予算の確保、あるいは省庁を横断する統計組織の設立といった、根本的な原因を解決するための再発防止策を早急に具体化・徹底することを通じて、統計に対する国民の信頼を取り戻すことであろう。


統計不正は深刻な問題と捉えるべきである。かつて、日本は情報や統計、データを軽視して国の進路を誤り、多くの人びとの生命・財産を失わせた苦い過去がある。再びあやまちを繰り返してはならない。



[1] 日本経済学会「『毎月勤労統計』をめぐる問題に関する日本経済学会理事会からの声明」(http://www.jeaweb.org/jpn/strage/20190129tokei.pdf)

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