東京五輪を1年後に控え思うこと

東京五輪のチケット抽選の発表日、普段は静かな会社内が当落で盛り上がっていた。弊社のオフィスからは国立競技場の一部が見える。気が付くと形が出来上がってきており、チケットの抽選と合わせ、五輪開催がいよいよ1年後に迫ってきたと実感する。


今から約6年前の2013年9月8日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会で2020年夏季オリンピックの開催都市が東京に決定した。招致決定時の映像は印象的であり、当時は2020年がずいぶん先のように感じられた。


オリンピックを機に開催国・開催都市は、経済的な発展や繁栄を求めており、その傾向は年々強まってきている。また、参加国、参加選手の増加などを背景に開催費用は肥大化しており、開催地の決定には経済的な側面も重視されるようになった。そのようななか、近年よく耳にするのが「レガシー」や「負のレガシー」という言葉である。レガシーとは、オリンピックを契機に生まれる、有形無形の遺産を指す。


オリンピック憲章にあるIOCの役割には、2003年以降「オリンピック競技大会の規模や経費を適切に抑えることを含め、オリンピック競技大会の将来性のある遺産を残すことを、開催都市や開催国に対して奨励する手段を講じる。」という項目が付け加えられており、IOCも「オリンピック・レガシー」という概念を強調するように変化している。


有形の代表的なレガシーはメインスタジアムであるが、大会終了後の利用がスムーズにいかないケースも多いようだ。負のレガシーと時として言われるゆえんである。


日本の新国立競技場は、当初の開閉式屋根案の場合、年間約40億円の維持費が示されていたが、その後建設計画が見直され、維持費は年間約24億円に低下した。しかし旧国立競技場の年間維持費であった約7億~8億円に比べるとおよそ3倍である。東京五輪・パラリンピック後の使用方法について、政府は将来的にトラックをなくしサッカーやラグビーなどの球技専用スタジアムに変える方針を決定したが、最大8万人も収容できる会場を有効に活用できるのか課題も残る。一方、東京都によると、五輪開催後(2020年10月から2030年8月)のレガシー効果による雇用誘発数は東京都で約47万人、全国で約70万人になると試算されている。


世界中の人々が感動や思い出を同時に共有できるオリンピックは、特別なスポーツイベントに間違いない。そんなオリンピックが未来につながっていくように、子供たちの夢であり続けられるように、我われの知恵と文化の力で「負のレガシー」でなく「レガシー」を残していきたいと強く思う。

このコンテンツの著作権は株式会社帝国データバンクに帰属します。著作権法の範囲内でご利用いただき、私的利用を超えた複製および転載を固く禁じます。