再び始まる金融緩和競争

2019年7月下旬は、日米欧の中央銀行による金融政策運営に世界中が注目していた。

  • 7月25日:ECB(欧州中央銀行)は、定例理事会で追加利下げや量的緩和政策の再開を検討していく方針を決定。
  • 7月30日:日本銀行は、金融政策決定会合で現行の金融緩和政策を維持することを決定。
  • 7月31日:FRB(米連邦準備制度理事会)は、FOMC(連邦公開市場委員会)で政策金利を0.25%ポイント引き下げ、2.00%~2.25%にすることを決定。

こうしてみると、日銀は一段の金融緩和に消極的とも映るかもしれない。しかし、当面の金融政策運営については、従来よりも緩和にやや前のめりの姿勢を強調している。日銀が公表した「経済・物価情勢の展望」に以下のような一文が新たに加えられたからだ。


"特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる。"


実は、この表現が書かれた背景には伏線がある。6月の金融政策決定会合の時点では、黒田総裁は記者会見で「・・・モメンタムが損なわれるような状況になれば、躊躇なく追加緩和を検討していくことになる・・・」と発言していた。これはつまり、インフレ目標に向けた動きが損なわれることが分かれば、【事後的に】追加緩和を検討する、ということである。


一方、7月の文章は、インフレ目標に向けた動きが損なわれていなくても、その惧れが高まった段階で、【事前に】追加緩和を実行する、ということを意味する。
しかしながら、これは、日銀による金融政策の選択肢が徐々に狭まるなかで、苦肉の策のような表現ではないだろうか。


他方で、FRBによる利下げは、リーマン・ショックで世界経済が大きく揺れた2008年12月以来、10年7カ月ぶりのことである。


米国の景気循環は2009年6月を谷として、10年にわたる回復期が続いている。また、2019年4~6月期の実質GDP(国内総生産)成長率は年率+2.1%と堅調なほか、失業率は2009年10月の10%から直近の6月に3.7%まで低下し、インフレ率も前年同月比+1.6%と安定している。それにもかからず、FRBは今後の景気動向の懸念に対する予防的な措置として、利下げに踏み切った。


利下げの動きは他国にも表れている。6月以降、オーストラリアやロシア、韓国などが次々と政策金利を引き下げた。ECBは9月にも利下げに動く可能性が指摘されているなか、日銀の次回会合は9月18日~19日に開催される予定だ。再び、世界は金融緩和競争に踏み込むのだろうか。

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