RCTが持つ可能性の広さ
授賞理由は「世界の貧困軽減に対する実験的アプローチ」である。途上国における貧困削減の政策評価に対して、全面的にRCT(Randomized Controlled Trial、ランダム化比較試験)アプローチを適用する基礎を作ったことが支持されたといえよう。現在、すでに3氏の業績は貧困削減に向けてさまざまな国で実践されており、多くの子どもたちに恩恵を与えている。
今回の受賞者はすべて米国の大学教授であるが、そのバックグラウンドは多様である。バナジー氏はインド出身で、アジア出身者では2人目のノーベル経済学賞の受賞者となった。また、デュフロ氏はフランス生まれで、同賞では過去最年少であった。ちなみに、バナジー氏とデュフロ氏は夫婦でもあり、夫婦でのノーベル賞受賞は、かのキュリー夫妻から数えて6組目、経済学賞に限るとミュルダール夫妻(夫のアルバは経済学賞、妻のグンナーは平和賞)に次ぎ2組目となった。
また、クレマー氏は米国生まれである。そのため、三者三様の生い立ちを経て米国で教鞭をとっている。このような多様性こそ米国の大きな強みとなっているのは間違いないだろう。
近年、日本でもEBPM(Evidence Based Policy Making、証拠に基づいた政策立案)が重視されるようになってきたが、RCTによる政策分析はEBPMの証拠として説得力の高いものとなる。例えば北九州市での電力価格フィールド実験などを通じて、電力価格と節電の関係性などが明らかとなっており、実際に自治体の施策に生かされている。
ビジネスの分野では、RCTはABテストなどと呼ばれることもあるため、ご存知の方も多いかもしれない。
RCTをビジネスで活用した有名な企業としては、自動車配車ウェブサイトおよび配車アプリのUber(ウーバー)を運営する米国のウーバー・テクノロジーズがある。同社では、一般人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ仕組みを構築するにあたり、RCTを積み重ねることで時間や地域などに応じた需要曲線を導出。配車可能な供給量と組み合わせて効果的な価格を設定したことで、急速に事業を拡大することに成功した。
ノーベル経済学賞の受賞理由は貧困削減への貢献であったが、その手法はさまざまなビジネスにおいて活用可能だ。また、大規模な試験だけでなく、日々の業務の見直しや効率化などにもRCTの考え方を応用することは非常に有用であろう。