製造業の不調が経済の先行きに対する不安感を高める要因に

今日、世界各地の企業業績は製造業を中心に悪化している。日本経済新聞によれば、世界景気の減速を背景に世界の上場企業の2019年7-9月期の純利益は前年同期比で8%減少したという。日本も例外ではなく、上場企業の2019年4-9月期の純利益の合計額は、前年同期比14%減と3年ぶりに減益となっている。とりわけ製造業が米中貿易摩擦などの影響を受け、同31%の減益となった。また11月のTDB景気動向調査では製造業の景気DIが7カ月連続で悪化し、2013年4月以来の低水準となった。日本銀行が四半期ごとに公表する企業短期経済観測調査(以下、日銀短観)の9月調査[1]でも、製造業の景況感を示す業況判断指数は3期連続で悪化し、2013年9月以来のマイナスである。


では、我が国ではどのような政策が実施されているだろうか。足元では経済産業省が実施する「ものづくり中小企業支援策」などが挙げられるが、貿易摩擦が激化している昨今の状況下においては物足りなさを感じる。しかしながら政府・日本銀行の見解は、輸出の動きが弱く、製造業の景況感が慎重である一方、堅調な内需のおかげで国内景気は「緩やかに回復している」というものだった。つまり景気動向の判断材料として、製造業の不振よりも非製造業の底堅さの方が強いというわけだ。そのため製造業への新たな支援策はともかく、追加予算を含めた景気対策や追加的な金融緩和措置が打ち出されていない状況である。


果たして今後も製造業の不調が経済全体に波及せず、景気悪化を招かないかという疑問が残る。そうしたなか、10月、11月のTDB景気動向調査では製造業の悪化が卸売などといった非製造業に波及している事例が見受けられた。さらに消費税率引き上げも影響し、非製造業に分類される各業界の景気DIを平均すると前月比マイナスに転じた。従って、製造業不振が続けば景気が後退する可能性は高いと考えられる。そこで足元のデータをみると、日銀短観の製造業における全規模合計の設備投資計画は前年度より伸び率が上がったなか、中小企業は前年度より伸び率が大幅に鈍化し、マイナスとなった。それに加え、9月の製造業の機械受注[2]は前月比5.2%減と2カ月連続で減少したことも踏まえると、製造業の景況感が回復するには時間がかかるだろう。


こうしたなか、マレーシアやタイが製造業を誘致するために外資への優遇策を打ち出しているニュースをよく目にする。これを受けて、製造業は景況感の回復あるいは国の支援策を待たずに、生産拠点を中国から上述の国に移転するのが得策だと思えてしまうかもしれない。しかし、こういった国々は同地域内の他の国と比べ優遇策が潤っておりインフラも比較的整備されている反面、比較的賃金水準が高い上に、経済成長が減速していることを考慮に入れると悩ましいところだ。 製造業企業は国内外の情報収集をしっかりとし、身を守る対策をじっくり考える時である。



[1] 日本銀行「全国企業短期経済観測調査(2019年9月)」(http://www.boj.or.jp/statistics/tk/index.htm/)
[2] 内閣府「機械受注統計調査報告(2019年9月実績、10~12月見通し)」(https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/juchu/1909juchu-3.pdf)

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