ミニマックス戦略の使い方
BCPの策定がなぜ進まないかを考察するため、以下のような状況を考えたい。
企業はBCPを「策定する」か「策定しない」かのどちらかを選ぶ。確率Pで、特に何も起こらず「平和」となり、1-Pの確率で今回のような「パンデミック」が起こるとする。「平和」な場合、「策定しない」を選んだ企業は4の利得(もうけ)が得られるが、「策定する」を選んだ企業はBCP策定の費用がかかり利得が3となる。他方、「パンデミック」が起こった場合、BCPを「策定しない」を選んだ企業は利得が0となるが、「策定する」を選んだ企業は事業が継続されて1の利得が得られる。
このとき、「策定する」を選んだ場合の利得の期待値(以下、期待利得)は2P+1、「策定しない」を選んだ場合は4Pとなる。したがって、「平和」となる確率が2分の1より大きいとき、企業は「策定しない」方が期待利得は大きくなる。
しかし、先行き不透明な状況では、「平和」や「パンデミック」の確率を正確に把握することは困難である。企業が確率を過大、または過小に見積もってしまうことで、各選択に応じた期待利得を見誤ってしまう。実際の確率と企業が考える確率に差異が大きく、期待利得を最大化する戦略を企業がとっていた場合、BCPを「策定する」べき状況でも「策定しない」を選ぶ可能性がある。正確に将来を予測することが難しい状況において、期待利得を最大化する戦略は最適ではないだろう。
起こりうる場合ごとに最小となる利得を比較し、そのなかで利得が最大となるよう選択する方法をミニマックス戦略と呼ぶ。この例では、「平和」の場合、BCPを「策定する」とき利得3、「策定しない」では利得が4となるため、「策定する」が最小(この場合は3)になる。また、「パンデミック」の場合、「策定する」が利得1、「策定しない」が利得0となり、「策定しない」が最小となる。ミニマックス戦略を採用した場合、これらの利得が最小(ミニ)となった選択のうち、企業は利得が最大(マックス)の「策定する」を選択することになる。
以上の議論では、「パンデミック」を台風や地震などに置き換えて考えても同様である。TDB景気動向調査でも、「新型コロナウイルスによる影響が計り知れない。今後もいつ収束するのかわからない」(広告関連)との意見がみられた。先行きの不透明感が増すなか、期待利得を最大にする戦略ではなく、損失を最小にする戦略が企業に求められているのではないだろうか。