新型コロナウイルスで再確認された「SDGs」の重要性
しかし、実は企業の新型コロナウイルス感染症対策こそがSDGsへの取り組みとなっている例は少なくない。例えば、取り組む企業が急増しているテレワークの導入は、感染リスクを減らすだけでなく、従業員の通勤によるストレスや疲れが軽減され健康状態の維持が期待できる。これはまさにSDGsの『目標8:働きがいも経済成長も』に直結している。また、在宅勤務によって家庭と仕事の両立が可能となることは『目標8』のみならず、女性のエンパワーメントの促進にもつながり、『目標5:ジェンダー平等を実現しよう』に貢献できる。さらには介護、高齢、身体障害などで通勤が困難な人の雇用も促進されることで、『目標8』に加えて『目標10:国内および国家間の不平等を是正する』への関与まで期待できる。
働き方以外の面でも例外ではない。テレワークやWeb会議の利用によりペーパーレス化が推進され、『目標15:陸の豊かさも守ろう』にも貢献できる。さらに在宅勤務によるマイカーやバス利用の減少はやがてCO2排出量の削減に貢献し、『目標13:気候変動に具体的な対策を』に相当する。
他方、日本中がマスク不足に陥るなか、マスクの製造を開始した企業や、外出自粛による運動不足の解消に向けて運動教室をオンラインで提供する企業もみられ、これらは『目標3:すべての人に健康と福祉を』に相当する。一見すると一時的な対策に思えるが、必ずしも当てはまらない。例をあげると、シャープはマスク生産が長期にわたって継続できる事業になるとの見解を示した。今回の危機がもたらす新常識であるマスクの着用を商機と捉え、自社の「持続可能性」を追求しながら社会にも貢献できるわけだ。また、オンライン運動教室を始めた企業でも、仮に平時に戻っても、移動することが困難な顧客などに向けた有料配信を展開することもできる。
逆にいえば、感染の拡大が起こる前に、意識的あるいは無意識のうちに既にSDGsに貢献していた企業にとっては、この新型コロナウイルスによる被害が本来より少なくとどめられていたのであろう。テレワークを導入していた企業をはじめ、オンライン運動教室や『目標4:質の高い教育をみんなに』の達成に向けてオンライン学習教室などを提供していた企業にとっては、比較的スムーズに企業活動を続けることができたと考えられる。
世界的なパンデミックによって多くの企業が経営困難に陥っているうえに「第2波」の到来も懸念されている。さらに自然災害や地政学リスクなどあらゆるリスクが顕在化しており、いわゆる緊急事態はいつまた起こるか我々には知るよしもない。このような時だからこそ、企業はSDGsをツールとして「持続可能性」を追求する機会ではなかろうか。