製造業における週休3日制導入の影響
業界別でみると、『製造』の景気DIは2019年4月以降13カ月連続での悪化となっていたが、6月調査では同0.6ポイント増と悪化がストップ。業種別でも12業種中8業種で持ち直しの動きとなった。しかしながら、前年同月比では18.4ポイント減であり、依然として低水準と厳しい状況が続いている。
『製造』の企業からは「週休3日で稼働する企業がかなりの数にのぼる」(電子計算機・同付属装置製造)や「週休3日、4日という状況で雇用調整助成金を受給している会社が多い」(銑鉄鋳物製造)のように、取引先企業で週休3日制が導入されている、または稼働日数が減少しているとのコメントが多数あげられている。国内の大手の製造業では、東芝が出社しなければならない業務に従事する従業員に対して、週休3日制などの導入を検討・実施すると発表。また、トヨタ自動車は国内工場の6月の稼働日について、生産調整のため毎週金曜日を非稼働日とした。そうしたなか、『製造』の設備稼働率DIは30.0となり、リーマン・ショック後の2009年6月以来11年ぶりの低水準となった。大手製造業での稼働低下の影響が、サプライチェーン全体に波及している様子がうかがえる。
日本経済団体連合会(経団連)は「製造事業場における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」[1]を5月14日にリリースした。同ガイドラインでは、「製造事業場においてはテレワークの実施が難しい面があり、職場における感染拡大対策の工夫・強化が大変重要になる」とし、講じるべき具体的な対策として通勤面では、「時差出勤やローテーション勤務(就労日や時間帯を複数に分けた勤務)、変形労働時間制、週休3日制など、様々な勤務形態の検討を通じ、通勤頻度を減らし、公共交通機関の混雑緩和を図る」よう求めている。製造業においては、徐々に生産ラインの稼働を戻していくなかで、このガイドラインにあるように新型コロナウイルスへの対策として、今後も時差出勤や週休3日制など勤務形態の見直しが続くと見込まれる。
このように製造業における週休3日制は、新型コロナウイルスへの対策や生産調整を目的としているが、働き方改革の一つとして週休3日制に取り組む企業もみられる。日本マイクロソフトは働き方改革の自社実践プロジェクトとして、2019年8月の1カ月間の全ての金曜日を休業日とし、その効果を分析した[2]。プロジェクト実施後、社内アンケートで「仕事のやり方や自己啓発について」の意識や行動に変化や影響があったか尋ねたところ、従業員の37.6%が「仕事に関する効率や効果に対する意識や行動」に変化があったと回答した。週休3日となったことで、ディープラーニングの資格を取得するための勉強をする時間が取れたとの声や、実家の事業でECサイトの構築などデジタルトランスフォーメーションに挑戦したといった声があがっている。
週休3日制の影響を分析するうえで、たびたび当コラムで紹介している行動経済学の観点を取り入れてみるのも良いのかもしれない。行動経済学では、人間の特性として現在の楽しみを優先して計画を先延ばしにしてしまうことを「現在バイアス」と呼んでいる。このような特性をもつ人に対しては、コミットメント手段(あらかじめ細かく締め切りを設けるなど制約をかける)を利用することが生産性の向上に効果的であると考えられている。労働時間への制約となる週休3日制は、従業員へのコミットメント手段となり、企業の生産性を高める可能性があり得るだろう。
製造業における週休3日制の動きは、新型コロナウイルスへの対策や生産調整を目的としている。一方で、業界こそ異なるものの日本マイクロソフトの事例にあるように、生産性の向上や新規事業への取り組みといったプラスの影響も、今後表れてくるのかもしれない。
[1]http://www.keidanren.or.jp/policy/2020/040_guideline2.html