宮本武蔵に学ぶ、『鍛錬』の重要性
宮本武蔵というと、「巌流島の戦い」が有名ではないだろうか。武将・佐々木小次郎との決闘で劣勢と言われていたなかで、約束の時間に2時間も遅刻し敵をイライラさせてから勝負を仕掛け一気に破るという、剣の腕だけではなく巧みな戦術も持ち合わせていた人物である。
実際に目を通すと、武蔵流の兵法を「二天一流」と名付け、剣豪らしく詳細に剣術が書いてある。さらに、必要な心構えやさまざまな戦局への対応方法、正攻法で勝てないときの奇襲のかけ方など、記されている戦術は多岐にわたる。さらに、敵になったつもりで相手を研究しろ、二回だめなら次は違う方法で攻めろ、といった剣術の書物とはいえども実生活にも活かせそうな要素が多分にあり、大変勉強になった。ただ、たしかにタメになるが、同じようなことを書いている人や本は他にも出会ったことがある。なぜ松井秀喜氏のような一流選手が愛読書にしているのだろうか?そんな疑問を持ちながら読み終えかけたとき、ようやくその理由、そして武蔵が最も伝えたい事に気付くことができた。
この本にはあらゆる章や節があるが、それぞれで戦術などを述べた最後に、「よく鍛錬するように」「よく吟味するように」とほとんどの節で書かれている。そして、本の第三章にあたる「水の巻」の最後にまとめられているものが、『五輪書』の最大の主張だと感じている。
「私の記した兵法を身に付ければ、どんな戦いにも勝てるまでに成長できる。しかし、それで安心してはいけない。記されていることを一つひとつ稽古し、敵とも戦うことで、千里の道を一歩また一歩と進んでいくのである。千日の稽古を『鍛』とし、万日の稽古を『練』とする。」
武蔵の記した技術面や考え方は一級品だろう。ただそれ以上に「鍛錬」、すなわち学ぶだけではなく実践で試してやってみないと意味がないということを、武蔵はもっとも言いたかったのかもしれない。こう思えたとき、私はハッとした。例えばこのように本を読んで、学ぶことが目的になっていないだろうか。セミナーを受講して、それだけで満足していないだろうか。あくまでこれらは何かに活かすという目的に向けた手段であるということを忘れてはならない。実践のなかで生かすことこそ「鍛錬」。偉人の著した書物は、現代においても大切な考え方を教えてくれるから面白い。